J-WAVE出演内容(11/22)
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出演時に話したことをご紹介します。写真は許可を頂いて掲載しております。
テーマ 『ユニバーサルデザインとは何か?その可能性とあり方について』
日時 : 11月21日(金)20:55〜21:20
放送局 : J−WAVE(FMラジオ・81.3・首都圏ネット)
番組名 : JAM THE WORLD
コーナー名 : 15MINUTES
Q:ユニバーサルデザインはどんな場所に活かされているのか?
乗り物で例えるなら「バス」はどうでしょう。以前は車椅子の方が乗れるように「リフト」が備え付けられたバスがありました。しかしリフトは車椅子専用の設備で他の乗降者が利用することが出来ません。最近普及してきている低床バス(スロープ付)は車椅子に限らず妊婦、ベビーカーをおしているお母さん、お年寄り、など誰にとっても楽に乗降できるデザインですが、このように一つの方法で、いろんな方のメリットになることがユニバーサルデザインだと思います。
あとは部屋のレバー式のノブも代表的なユニバーサルデザインだと思います。回転式ドアノブは”握る”ことを前提とされたもので、上肢に障がいがある方(握ることが出来ない)には使えないデザインです。レバー式ドアノブであれば、握れなくとも上から押すだけで開閉できます。また障がいがなくても、荷物を持った状態で肘で開けられるなど、広く様々な方にとって有効です。
Q:磯村さんは、富士フィルムの社員として、どんな商品を手がけていらっしゃるんですか?
ビデオカメラ、デジカメ、写ルンです。そしてX線撮影、血液分析の医療用機器まで様々な商品のプロダクトデザインとインターフェースデザインを担当してきました。現在は、使いやすさの研究と検証活動をしております。
Q:写ルンですって、どのあたりが「ユニバーサルデザイン」ですか?
いつでもどこでも買えて、誰でも失敗なく撮影でき、お店に本体を出すだけでプリントが得られるなど仕組み自体がユニバーサルデザインだと思います。また操作も「フイルムを巻き上げる」「シャッターを押す」といった極めて簡単な動作で誰にでも使えることが出来ます。
更に視覚障がいをもつ方も使って頂いていると伺っています。家族とのコミュニケーション(旅行先で撮影したものを帰宅後にご家族に見せる)に使われているようですが、写ルンですの「巻き上げ感(音、感触)」「シャッターを押す感覚(音、感触)」「広範囲にピントが合うパンフォーカス(対象が見えていなくてもシャッターがきれる)」は視覚障がいをもつ方でも使って頂ける要素を備えています。
Q:デザイナーとして、さまざまな商品を見てきた磯村さんが「この手があったか!」と思ったユニバーサル商品ってありますか?
非常に身近な事例ですが「つゆだれ」をゼリー状にしている納豆のパッケージを挙げたいと思います。納豆のつゆだれは、開封時に手を濡らしてしまうなど扱いにくいものです。通常の商品開発であるならば、開封性の向上のため、切りかきを深く、つまみやすくするなどの工夫をするところですが、これはそもそもつゆだれの袋自体をなくし、ゼリー状にすることで箸でつまめるようにしています。開封自体をなくしたわけです。課題解決志向から大きく飛躍できた好例だと思います。
Q:一方、まだ、ユニバーサルデザインが浸透していない分野はドコですか?
使用するユーザーが限定される業務用機器は、浸透していないといえるかもしれません。
Q:そもそも「ユニバーサルデザイン」という考えは、いつごろ出てきた?
今から20年以上前。1985年にノースカロライナ州立大学のロナルド・メイスさんによって提唱されたものです。実は、彼も車椅子のユーザーでした。
Q:ユニバーサルデザインの7原則ってどんなモノ?
1.どんな人でも公平に使えること、2.使う上で自由度が高いこと、3.使い方が簡単ですぐに分かること、4.必要な情報がすぐに分かること、5.うっかりミスが危険につながらないこと、6.身体への負担、7.接近や利用するための十分な大きさと空間を確保すること
Q:その「ユニバーサルデザイン」の理念が誤解されているなぁと思うコトもあるそうですが、それは?
例えば、薄い、軽い、丈夫をユニバーサルデザインのポイントとしたモバイル製品ですね。モバイル性(携帯性、堅牢性)を特徴とする家電製品(ノートPCなど)で、薄い、軽い、丈夫は通常の商品開発でも行われていることです。それをユニバーサルデザインとして解釈することは多少違和感を感じます。
Q:なぜ、そういう誤解が生じてくるのだと思いますか?
ユニバーサルデザインのプロセスは、通常のデザインプロセスと基本的に大きく変わらないことが要因だと思います。そして、多くのユーザーのことを考えるというのは、少なからず今までもやっていたことです。ただユニバーサルデザインは、それを改めて再定義していることころに価値があるのですが、現在は、少しでもユーザー層を広げれば、ユニバーサルデザインと解釈しているところに誤解が生じているのかもしれません。

Q:磯村さんが「ユニバーサルデザイン」に注目したキッカケは? 会社から「これからはユニバーサルデザインの時代だから研究しなさい」などといった要請があったんですか?
デザイナーとして活動しながら「自分のデザインを本当にユーザーは戸惑わずに使っているのか?」という問題意識を持つようになったのと同時に、部門としての戦略もあり、私自身が、ユーザーに直接、操作性について聞くユーザビリティ(使いやすさ)評価活動を始めました。実際に、ユーザーが使えなかったりするところを目の当たりにすると、すべきことは本当に多くあるのを実感するのと同時に、様々なユーザーに接すると、ハンデを持った方も含めて、いろんな特性ごとに、いろんなニーズがあることを知りました。それから、より多くの方を対象とした、製品のデザインはどうあるべきかを「写ルンです」などで、研究するようになりました。
また、個人的にも目の見えない、耳の聞こえない友人が多く、彼らに伝わる「プレゼンテーション」はどうあるべきかとの問題意識から、2年前に、「感じるプレゼン」という障がいのある方に配慮したプレゼン方法を紹介する本をだしました。
Q:実際、磯村さんの会社に限らず「ユニバーサルデザイン」に注目する企業は多い?
多いと思います。お客様に対する企業の姿勢を端的に表す活動ですから。また企業に限らず、行政でも街づくりの指針にしているケースもあります。
Q:誰でも使いやすい形は、時に特殊な形状の場合があり割高になったりしませんか? 企業として収益は取れる?
商品の価格は開発費と生産台数との相関で決まってくるものです。ユニバーサルデザインを生み出すために多くの開発費がかかったとしても、生産台数を多くすれば商品価格は抑えられます。よって割高になっているのは、まだ多くのユーザーに支持されていないだけであるといえます。ユニバーサル商品が普及するには、幅広く多くのユーザーに支持されるような商品価値を生み出すことが必要だと思います。
Q:左利きの人はハサミが使いづらかったり、ドアノブが向かって左側に付いているから開けづらいのも、ユニバーサルデザインの考えが浸透していなかったから?
そういう状況を踏まえて、ユニバーサルデザインが提唱されたのだと思います。
Q:例えば、ラジオは「音を使ったメディア」ですが・・・磯村さんから観て「ココをこう変えたらユニバーサルメディアになるのにな」というヒントは?
音声は聴覚障がいをもつ方には伝わりません。よって一般的なユニバーサルデザインの考え方に沿えば聴覚障がい者に対して、骨電導、手話通訳などの情報保証をすることになります。しかしこれらはハードもしくはシステムのソリューションであり、音声メディア(コンテンツ制作側)にとってはなかなか馴染みません。
そこで、例えばこんな風に考えてみてはどうでしょうか? 視覚障がい者で「語り(朗読)」をしている方を起点に考えてみましょう。その方は幼い頃はまだ見えていましたが、成長するにつれ徐々に視力を失いました。子供の頃は絵を描くことがとても好きで、目が見えないことにより絵がかけなくなることにとても深く悲しまれたそうです。ある日、ご両親に連れられ、視覚障がい者の「語り」を聞く機会があったそうです。そこで聞いた言葉が、ご自分の頭の中で壮大なイメージ(絵)が広がったことを体験したのですが、そこで 「私は手で絵が書けなくても、言葉で聞く人の頭の中に絵がかける」ことに気づいたといいます。そして今、彼女は「語り部」として聞く人の頭の中に絵を描いています。
さて、このように音声メディアは、発信側の情報を、聴衆が自分の経験と知識で補完してイメージすることで完結するのだといえますが、ここに映像メディアにはない可能性があると思います。この可能性に着目すると同時に、よりイメージを膨らませるきっかけを与えてはどうでしょうか。
例えば、「やわらかな雨」「ふくよかな雨」「あたたかい雪」「やさしい雨」など通常使わない形容詞と名詞の組み合わせにより、映像では決してできない豊かなイメージを聴衆の頭の中に構成することができます。実は、そもそもこうした事例は熟語、固有名詞として普及しているものもあります。「冷たい視線」「硬水」「軟水」「熱い視線」「おいしい生活」などがそれにあたります。これに音声ならでは、感情をこめた「語り口調」(やわらか~い雨、や・わ・ら・か・い・あ・め、ヤワラカイあ~め 等々)を入れれば、同じ単語、熟語でも様々なイメージを生み出すことが出来ると思います。
Q:最後に・・・ユニバーサルデザインがまだ浸透していない分野で、今後、磯村さんが手がけてみたいと考えているモノは何か?教えていただけますか?
まったく浸透していないわけではないが、個人的に手がけてみたいのは、患者にやさしい医療機器です。当社製品に経鼻内視鏡(鼻から入れる内視鏡)がありますが、これは内視鏡が挿入されても、医師と話が出来る、嘔吐感がないなど、検査が楽に受けられるとして患者さんに好評です。このように医療機器の使用者は医師、看護師、放射線技師など医療従事者だけでなく、患者も使用者であるといえます。患者には、子供、お年寄り、障がいを持った方など様々な特性の方がいらっしゃいますが、ここにこそユニバーサルデザインのアプローチが必要だと思うのです。
また当社の製品ではありませんが、視覚障がい者が使用することを想定した携帯電話も考えてみたいですね。視覚障がい者にとって使いやすい製品を考えることは、ブラインドタッチで使える製品開発に繋がると思います。最近、携帯電話の画面を見ながら歩いている方を見かけますが、大変危険ですよね。ブラインドタッチで使える携帯電話(=画面を見なくても使える携帯電話)は、歩きながらでも安全に使えるはずです。このように、障がい者を起点にした新しい価値創造に挑戦してみたいですね。

最後に、放送を聴いて頂いた妻のご友人のコメントを掲載します。(ご本人の許可を頂いております) 「心のバリアフリー」という提言が、とても感動しましたので転載させて頂きました。
『旦那様のお話、とっても面白かったです。特に「写るんです」の巻き取り音、シャッター音が視覚障害の方にとって重要な役割を果たしているというお話、病気で目が不自由だった母を思い出しなんだかジーンとしました。
ユニバーサルデザインという言葉は結構前から知っていて、数年前アパレル業界に勤めていた時に「ユニバーサルファッション」なるものを知りました。やはり車椅子の方でも着られる服、というものが多くファッションショーも行われているようです。
うちは主人が左利きで、そのためにいかに苦労しているかということを日頃から聞いていまして、例えば駅の自動改札機。左手で定期を通すためには体の前にグイと左手を曲げて持っていかないと通れない。これは言われるまでまったく気がつきませんでした。公共の交通手段である鉄道の現場も、大多数の右利き向けにできているのですね。また、左利きでは文字もまっすぐ書きづらいようです。子供の頃は習字の時間がとても辛かったようです。
病気だった母、左利きの夫、自閉症の長男と私の周りにはハンディのある人が多いようで・・・特に長男に関しては身体障害ではないので誤解されやすいのが現実です。個人的にはユニバーサルデザインの更なる普及と「心のバリアフリー」が社会に広がってほしいと願っています。』



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