2008年 10月 25日
世界情勢とデザイン
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先日参加したISL年次総会。基本的にはISL卒業生が参加する大会だが、著書のタイトルが似ているということで知り合った高津さんの紹介で参加してきた。
ISLは次世代のリーダー育成を目的としているが、リーダーは世界情勢にも強い関心と高い倫理観を持つことが必要であることを踏まえ、この年次総会のテーマも「グローバル世界の行方を展望する」と「今、あらためてアフリカを考える」という壮大なテーマが掲げられた。
大変豪華なゲストが揃った。小林陽太郎氏(富士ゼロックス相談役最高顧問)、ジョン・ハムレ博士(CSIS所長兼CEO、前米国国防副長官)、船橋洋一氏(朝日新聞主筆)、長谷川閑史氏(武田薬品工業社長)、永山治氏(中外製薬社長)、ルミール・ルワマシラボ博士(在日ルワンダ大使)、ヨハン・セルス博士(UNHCR日本事務所代表)、小黒一三氏(月刊誌「ソトコト」編集長)、岡本巌氏(住友商事代表取締役専務執行役員、前資源エネルギー庁長官)、北城恪太郎氏(日本IBM最高顧問)。 普通に講演を依頼すると大変な額になるだろうが、その多くがISL創設に関わった方々であることを考えると、ほぼボランティアに近い形で参加しているのだろう。
会の進行も非常にユニーク。まずはグループ毎に「グローバル世界の行方を展望する」と「今、あらためてアフリカを考える」についてプレ・ディスカッション。たまたま居合わせたテーブルの方々とは当然初対面。無茶振りもいいところだが、講演を聞く前にこうして自分自身と向き合うのは、問題意識が整理されていい。私のテーブルには、弁護士、部長クラスの方々が揃ったが、テーマがいい具合に漠然としていて、これがかえってそれぞれの立場に関係なくフラットに議論できることにつながった。
会を通じて、いくつか印象に残ったことを紹介したい。最近のイラク情勢は改善に向かっているというトピック。次期新大統領が就任した暁には早々にイラクから手を引くのではないかという。今まで米国は圧力で鎮静化しようとしていたが、イラク人の雇用確保、家族の安全などに方針を切り替えたところ情勢は大きく鎮静化に向かったというのだ。そもそも一般市民がなぜテロを起こすのか? それは家族の生活のためだという。雇用があれば家族の生活が保障されるわけだが、戦乱時は生活費のため友乱軍に参加するなど戦争に身を投じるしかない。これがテロ事件につながるという。
これに関して大変印象深い話がある。アフガニスタンで増加し続けている自爆テロ事件で、実行犯の6割以上が障がい者なのだという。手足などを失い失業して貧困に陥った障がい者が、家族の生活を保障するなどと口約束されて、自爆している可能性があるというのだ。誰しも進んで戦乱に身を投じるものはいない。「雇用の確保」ひいては「家族の生活」は、「戦争」と密接に結びついているということだ。
こうして考えると、世界規模での治安維持のためには発展途上国へのODAも妥当な思索だと合点が行く。単に金をばら撒くのは賛成しかねるが、発展途上国の産業の発展それがひいては雇用の確保につながるのであれば、世界規模でのテロからの脅威をなくすためにも積極的に推進すべき課題だろう。因みに現在の日本のODAは0.15~0.17%(対国民総生産)だという。しかし欧州先進国では0.6%を上回っている国もある。日本にもまだまだすべきことはある。
次は、世界の中で日本はどの領域でリーダーシップをとっていけるのかというトピック。混乱する世界情勢の中、”あうん”の呼吸でコミュニケーションをとる日本人は”世界の調整役”として貢献できるのではというユニークな視点が会場から提言されたが、船橋洋一氏(朝日新聞主筆)は日本はエコに関して既にパイオニアであり、この領域こそリーダーシップをとっていけるだろうという。最近のハイブリットカーは言うに及ばす、古くは江戸時代のエコ生活(鎖国による自給自足生活がそうさせたという論旨がある)は世界中から注目されていると聞く。そして日本発である京都議定書は国家間の環境問題において必ず出てくるキーワードだ。因みに日本のエネルギー消費率は、米国に対して2倍、中国に対しては8倍も効率的なのだという。
あとは深刻な経済危機の真っ只中にあるといわれる米国のトピック。米国のエコノミックパワーの影響下にあった世界情勢も、今後変わらざるを得ないという。公的資金導入が間近だとされているなか、資本主義の構造自体がもはや限界にきているという論旨もある。一人勝ちの米国、そして世界の警察官たる強い米国の時代はとうに終わり、すべてが対等に連鎖する構図(全球化というキーワードがでた)において新たな秩序が必要とされているという。
「家族の生活と戦争」 「エコロジー」 「新たな秩序」 そうそう一足飛びに結びつかないことは承知だが「デザインで貢献できることはないか?」というように、マクロ視点から自分のデザイン活動を俯瞰してみると、今後のデザイン活動の方向性が見出せるのではないだろうか。そして、自分が何のためにデザインをしているのかの意義も見出せるように思う。
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by isoamu
| 2008-10-25 15:36
| 他