人間中心設計の進め方
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ヒューマンインタフェースシンポジウム2007の講習会の一つ
「成熟度の水準に対応した人間中心設計の進め方 」
人間中心設計機構(以下HCD-net)の中心人物がお話されるということで、HCDにおける現状の問題意識が知りたいと思い聴講した。
実は、人間中心設計・Human Centerd Design(以下 HCD)については懐疑的だった。HCD-netの議論の対象は、既にユニバーサルデザイン、ユーザビリティデザインのあるべきプロセスとして論じられてきたことで、HCDの役割がいまひとつすっきりしなかった。という思いもあり、私自身どう整理出来るかも大きな関心事でもあった。
講演の論点は、企業の成熟度(HCDプロセスの導入度合い)に応じて、対応内容が変わってくるというものであった。展開された内容には、それぞれに思い当たる節があり、納得感もあったが、新鮮さはなかった。ただ、私自身が以前から持ち続けていた問題意識が、数多くの事例を知っているであろう講演者と同じベクトルにあることが確認できたのは有意義であった。
そもそもHCDプロセスを導入するモチベーションはなんなのであろう。
黒須先生がHCDプロセスの成功事例としてあげられた「三菱電機のエアタオル」「富士通のスキャナー」など、いずれもユーザー視点からのモノづくりが展開された好例だという。(こうして事例を挙げると途端に「○○という事例も該当するのでは?」「この事例は○○という観点で本議論にはそぐわない」など、瑣末で終わりのない議論に移行しがちになる。黒須先生もクライアントから求められてやむ無くといったところだったようだ) そして、講演の中では、「ヒット商品」「ビジネスに貢献」というキーワードまで出てきた。
こうした商品を生み出す為には、何もHCDが定義するプロセス以外にも必要な要件はあるだろう。昨今のイノベーション論議に代表されるような、いかに発想・着想を得るかという要件である。実際のところ、私の「HCDは発想・着想に対しても言及する必要があるのでは?」といった意見に対して「確かにHCDのフォーカスに入っていない。片手落ちではという意見もあるが、HCDプロセスは、それに繋がる可能性を秘めている」(確かそんなような回答)と黒須先生も話しておられた。
しかし、HCDプロセスを、いままで誰もやってこなかった分けではない。要件定義→プロト製作→評価→フィードバックなど現在の開発プロセスにも存在はしている。そうした中で、声高にHCD導入を唱えたところでなんら説得力を持たないのが、現場の大きな悩みだろう。そして、前述のようにHCDプロセスが「ヒット商品」「ビジネスに貢献」もなんら具体性はない。
この私の問題意識に、ほぼストレートに答えてくれたのが、ユーアイズノーバスの鱗原社長だった。
「HCDプロセスは、聞いたつもり、見たつもり をなくすもの」
今まで、暗黙値であったことや、曖昧にしてきたことをキチンとやりましょうということ。大上段に構えるのではないこのスタンスには、一定の理解を得られると思うが、やはり具体性を問われそうだ。そうすると、あとはなんといっても「成功事例」か。
ついつい水平展開(より多くの事業部対して)に思考が移りがちだが、最も効果が得られそうな事業(現時点で期待されている)にリソースを集中して取り組む必要がありそうだ。
鱗原社長はデザイナーの立場からこう語ってくれた。
「プロセスを語りだしてから、要件定義など開発上流から参画できるようになった。今までのデザイナーのスタンスではありえなかったこと。大方、製品仕様が決まってからの参画で、提案しようとも、限られた範囲での活動にとどまっていた。ここまで領域が広がったことは、この活動の大きな魅力である」
成熟商品であれば、相対的にデザインのユーザー価値が高まり、商品企画との連携が強くなっているケースも多いと思うが、こうした切り口もありうるのかもしれない。そして、確かにこれはデザイナーとって大きなモチベーションになりうる。
うん、有意義な講演だった。



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