2007年 08月 19日
インハウスデザイナーのロールモデル
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「ロールモデル」=規範(ひな型)。行動の規範となる存在 お手本
新規事業創出においてデザイナーに求められる事はなんだろう。
「B to C」「B to B」に分けて考察してみたい。
「B to C」においては、審美性、操作性など購買動機に影響しうる要素が多くデザイナーが貢献しうる領域は明白である。しかし、ネットの出現以来、単体でユーザー価値を訴求しうるものが少なくなってきている状況は考慮されるべきだろう。例えば、デジカメであれば外観を担うプロ「ダクトデザイン、操作性を担うインターフェースデザイン、そしてその操作性を客観評価するユーザビリティ評価、更には撮影画像をネット上でどう楽しませるかの”仕組み”のデザインなど多岐に渡る。私が担当したフォトサービス事業でも、撮影画像用テンプレートのグラフィックデザイン、携帯電話UIのインターフェースデザイン、そしてその客観評価のユーザビリティ評価。そしてそもそもどのような仕組みで楽しませるかの”仕組み”のデザイン。サービスネーミング、ロゴデザインなど幅広い領域に対応する必要があった。
こうした状況下でデザイナーに求められることは、各デザインスキルのみならず、それぞれのデザインスキルをプロジェクトに応じて適切にプロデュースする能力が求められる。案件毎で必要なデザインスキルと、更にその中でも重点化すべきものは変わってくるはずだからだ。
「B to B」においてはどうだろうか。B to Bと言っても様々であろうから、ここでは「材料ビジネス」において考察してみたい。例えば、塗料メーカーに対して、新しい表面処理を提供する材料を売りたいとしよう。デザイナーは、塗料メーカーに対し、自社の材料を使ったサンプル提示はさることながら、様々な業態への展開アイデア(こんな所にも使えるの!)など、その材料の可能性を示す事も貢献しうるだろう。そしてそれ自体のビジュアル(ここに使うとこんな風になるんだ)も塗料メーカーとのコミュニケーションでは重要になってくる。従来は営業担当自身が行ってきた領域だと思われるが、デザイナーが入ることによって、より顧客(ここでは塗料メーカー
)の興味を引くツールに仕立てることが出来る。
こうした状況下において、デザイナーに求められる事は、デザイナーとして基本的な資質である「発想と可視化(ビジュアル)の能力」であろう。
一方で、新規事業創出はそもそも「何を作るべきか?」から始まるものである。つまりデザイナーが貢献出来る領域自体が定まっていない場合が多い。特にインハウスデザイナーであればこうした状況下で話を受ける場合もあるだろう。
そもそもデザイナーは、発想と可視化の能力のみならず、多くのアイデアの中からどれが適切なのかを選択する能力も備わっているはずである。デザイナーは日々の業務の中でアイデアを出すのと同時に、それぞれのアイデアの最終形、そしてそれがどのようにユーザーに使われるかをイメージしながら、どれを選択すべきか決定を下している。こうした「イマジネーション力」を元にした「選択眼」をデザイナーは自身の作業から必然的に開拓している。そもそも「スケッチ」を描くという行為は、数あるイメージの中から「選択」し、一つのラインに「統合」する極めて高度な作業なのだ。
新規事業創出の「何を作るべきか?」といった状況下において、こうした「イマジネーション力」を背景にした「選択眼」は、そのプロジェクトの意思決定に大きく貢献しうるはずである。(具体性が無いのは承知の上。まさしくこれから挑戦していこうとしている領域) 新規事業は、そのリスクの軽減を目的として多くの定量データ(マーケット規模など売れる可能性の数値データ)を求められるが、そもそも定量データが存在しないのが新規事業である。企画者が定量データとして提示するのは、都合のいいデータで塗り固めたいわば「提案を通すためのツール」に過ぎない。売れる売れないも大切だが、こうも先が読めない時代にあっては、最終的には関連メンバーが「共感できる」(やりたいと心底思える)選択肢を提示できるかどうかが寛容ではないだろうか。デザイナーは、ユーザーの立場から本質を掴み、その本質をビジュアル(時には言葉)によってメンバーの共感を得て、プロジェクトをファシリテーション出来ると考える。
「新規事業創出においてデザイナーに求められる事はなんだろう」
1)各デザインスキル
プロダクトデザイン、インターフェースデザイン、グラフィックデザイン
ユーザビリティ評価、ロゴデザイン 等々
2)プロデューススキル
各デザインスキルをプロジェクト毎適切に選択する。
そして、何を重点化して取り組むべきかをマネージメントする。
各デザインスキルに対して、ビジョンを提示する。
3)基本的なデザインの資質
発想力、ビジュアル力
4)意思決定を促進させる選択眼
ビジュアル、時には「言葉」を用いてメンバーを導くファシリテーション力
果たしてこうした能力を個人で獲得出来るのであろうか。各デザインスキル毎、高い専門性を必要とする。到底一人で全てを獲得出来るものではない。拠って基本的にはチームで対応することになるだろう。一方、プロデューススキルなどは当然一人称で対応されるべきものだろう。
さて、こうした状況下において、デザイン部門はデザイナーの育成に明確なビジョンを持っていただろうか? そして具体的な手段としてのキャリアパスをイメージしきれてていただろうか? 新規事業に限らず、モノが多く溢れ、またネットの出現以来、デザイナーが対応すべき領域は広がる一方である。にも関わらず、インハウスデザイナーの模範たるロールモデルは、専門性の高いデザイナーに集約され、こうした複雑な状況下に対応しうるデザイナーのロールモデルはいまだ明確には存在していないのではないだろうか。
奇しくも、バブル期(定義は様々かと思うが、ここでは1988~92とする)に入社したデザイナーは、こうした時代の変化を経験し、これからそれぞれの部門を率いていく立場についてくるだろう。そうした時に、一緒にやっていく部下に対し、自信を持って提示できるロールモデルを我々は持ち合わせているのだろうか?
「ジェネラリスト以外にスペシャリストという道もある、だから一つの業務にとどまって専門性をたかめればいいというふうに、働く側も企業側も錯覚した。 ~中略~ ホワイトカラーの単能工化が進んだに過ぎないように思えます。 ~中略~ でもそれじゃ大工の棟梁にはなれない。うまく釘が打てるのはもちろんのこと、それ以外の作業も一通りできて、材木のこともわかる、設計が出来てコスト計算ができる、若い職人を動かせる、施主との交渉もできるという人こそ、家を建てることの専門職でしょ。本来そういうのが、ジェネラリストに対置されるプロフェッショナルなんだけど。」
出典:Works 83号「起て、バブル・ミドルー卒業モデルの提案」
今までは、時代の変化に応じて何とか対応してきた。しかし、プロフェッショナルたるべく、模範となる規範(=ロールモデル)を周りに与えていくべく、自らがそれを体現していかなくてなならない。バブル期入社のデザイナーは、そう突きつけられていると思う。
このエントリーのきっかけを与えてくれた「Works」 そして、その編集長であり私の友人でもある高津さんの編集後記を最後にご紹介したい。
「平成元年入社、41歳。私はまさにバブル世代です。いつの間にか、約80年の人生の真ん中に。大卒から定年までの約40年の真ん中に。そして気が付けば「ミドル」と呼ばれる年代に。「バブルミドル」の誕生です。 ~中略~ 豊かな人生とは何か。本号は、その問いの答えを探す小旅行でした。個人としての豊かな生活と、組織や社会への本当の貢献は、必ず繋がっている。それを体現していくのがバブルミドルの役割なのかもしれません」
出典:Works 83号「編集後記」
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新規事業創出においてデザイナーに求められる事はなんだろう。
「B to C」「B to B」に分けて考察してみたい。
「B to C」においては、審美性、操作性など購買動機に影響しうる要素が多くデザイナーが貢献しうる領域は明白である。しかし、ネットの出現以来、単体でユーザー価値を訴求しうるものが少なくなってきている状況は考慮されるべきだろう。例えば、デジカメであれば外観を担うプロ「ダクトデザイン、操作性を担うインターフェースデザイン、そしてその操作性を客観評価するユーザビリティ評価、更には撮影画像をネット上でどう楽しませるかの”仕組み”のデザインなど多岐に渡る。私が担当したフォトサービス事業でも、撮影画像用テンプレートのグラフィックデザイン、携帯電話UIのインターフェースデザイン、そしてその客観評価のユーザビリティ評価。そしてそもそもどのような仕組みで楽しませるかの”仕組み”のデザイン。サービスネーミング、ロゴデザインなど幅広い領域に対応する必要があった。
こうした状況下でデザイナーに求められることは、各デザインスキルのみならず、それぞれのデザインスキルをプロジェクトに応じて適切にプロデュースする能力が求められる。案件毎で必要なデザインスキルと、更にその中でも重点化すべきものは変わってくるはずだからだ。
「B to B」においてはどうだろうか。B to Bと言っても様々であろうから、ここでは「材料ビジネス」において考察してみたい。例えば、塗料メーカーに対して、新しい表面処理を提供する材料を売りたいとしよう。デザイナーは、塗料メーカーに対し、自社の材料を使ったサンプル提示はさることながら、様々な業態への展開アイデア(こんな所にも使えるの!)など、その材料の可能性を示す事も貢献しうるだろう。そしてそれ自体のビジュアル(ここに使うとこんな風になるんだ)も塗料メーカーとのコミュニケーションでは重要になってくる。従来は営業担当自身が行ってきた領域だと思われるが、デザイナーが入ることによって、より顧客(ここでは塗料メーカー
)の興味を引くツールに仕立てることが出来る。
こうした状況下において、デザイナーに求められる事は、デザイナーとして基本的な資質である「発想と可視化(ビジュアル)の能力」であろう。
一方で、新規事業創出はそもそも「何を作るべきか?」から始まるものである。つまりデザイナーが貢献出来る領域自体が定まっていない場合が多い。特にインハウスデザイナーであればこうした状況下で話を受ける場合もあるだろう。
そもそもデザイナーは、発想と可視化の能力のみならず、多くのアイデアの中からどれが適切なのかを選択する能力も備わっているはずである。デザイナーは日々の業務の中でアイデアを出すのと同時に、それぞれのアイデアの最終形、そしてそれがどのようにユーザーに使われるかをイメージしながら、どれを選択すべきか決定を下している。こうした「イマジネーション力」を元にした「選択眼」をデザイナーは自身の作業から必然的に開拓している。そもそも「スケッチ」を描くという行為は、数あるイメージの中から「選択」し、一つのラインに「統合」する極めて高度な作業なのだ。
新規事業創出の「何を作るべきか?」といった状況下において、こうした「イマジネーション力」を背景にした「選択眼」は、そのプロジェクトの意思決定に大きく貢献しうるはずである。(具体性が無いのは承知の上。まさしくこれから挑戦していこうとしている領域) 新規事業は、そのリスクの軽減を目的として多くの定量データ(マーケット規模など売れる可能性の数値データ)を求められるが、そもそも定量データが存在しないのが新規事業である。企画者が定量データとして提示するのは、都合のいいデータで塗り固めたいわば「提案を通すためのツール」に過ぎない。売れる売れないも大切だが、こうも先が読めない時代にあっては、最終的には関連メンバーが「共感できる」(やりたいと心底思える)選択肢を提示できるかどうかが寛容ではないだろうか。デザイナーは、ユーザーの立場から本質を掴み、その本質をビジュアル(時には言葉)によってメンバーの共感を得て、プロジェクトをファシリテーション出来ると考える。
「新規事業創出においてデザイナーに求められる事はなんだろう」
1)各デザインスキル
プロダクトデザイン、インターフェースデザイン、グラフィックデザイン
ユーザビリティ評価、ロゴデザイン 等々
2)プロデューススキル
各デザインスキルをプロジェクト毎適切に選択する。
そして、何を重点化して取り組むべきかをマネージメントする。
各デザインスキルに対して、ビジョンを提示する。
3)基本的なデザインの資質
発想力、ビジュアル力
4)意思決定を促進させる選択眼
ビジュアル、時には「言葉」を用いてメンバーを導くファシリテーション力
果たしてこうした能力を個人で獲得出来るのであろうか。各デザインスキル毎、高い専門性を必要とする。到底一人で全てを獲得出来るものではない。拠って基本的にはチームで対応することになるだろう。一方、プロデューススキルなどは当然一人称で対応されるべきものだろう。
さて、こうした状況下において、デザイン部門はデザイナーの育成に明確なビジョンを持っていただろうか? そして具体的な手段としてのキャリアパスをイメージしきれてていただろうか? 新規事業に限らず、モノが多く溢れ、またネットの出現以来、デザイナーが対応すべき領域は広がる一方である。にも関わらず、インハウスデザイナーの模範たるロールモデルは、専門性の高いデザイナーに集約され、こうした複雑な状況下に対応しうるデザイナーのロールモデルはいまだ明確には存在していないのではないだろうか。
奇しくも、バブル期(定義は様々かと思うが、ここでは1988~92とする)に入社したデザイナーは、こうした時代の変化を経験し、これからそれぞれの部門を率いていく立場についてくるだろう。そうした時に、一緒にやっていく部下に対し、自信を持って提示できるロールモデルを我々は持ち合わせているのだろうか?
「ジェネラリスト以外にスペシャリストという道もある、だから一つの業務にとどまって専門性をたかめればいいというふうに、働く側も企業側も錯覚した。 ~中略~ ホワイトカラーの単能工化が進んだに過ぎないように思えます。 ~中略~ でもそれじゃ大工の棟梁にはなれない。うまく釘が打てるのはもちろんのこと、それ以外の作業も一通りできて、材木のこともわかる、設計が出来てコスト計算ができる、若い職人を動かせる、施主との交渉もできるという人こそ、家を建てることの専門職でしょ。本来そういうのが、ジェネラリストに対置されるプロフェッショナルなんだけど。」
出典:Works 83号「起て、バブル・ミドルー卒業モデルの提案」
今までは、時代の変化に応じて何とか対応してきた。しかし、プロフェッショナルたるべく、模範となる規範(=ロールモデル)を周りに与えていくべく、自らがそれを体現していかなくてなならない。バブル期入社のデザイナーは、そう突きつけられていると思う。
このエントリーのきっかけを与えてくれた「Works」 そして、その編集長であり私の友人でもある高津さんの編集後記を最後にご紹介したい。
「平成元年入社、41歳。私はまさにバブル世代です。いつの間にか、約80年の人生の真ん中に。大卒から定年までの約40年の真ん中に。そして気が付けば「ミドル」と呼ばれる年代に。「バブルミドル」の誕生です。 ~中略~ 豊かな人生とは何か。本号は、その問いの答えを探す小旅行でした。個人としての豊かな生活と、組織や社会への本当の貢献は、必ず繋がっている。それを体現していくのがバブルミドルの役割なのかもしれません」
出典:Works 83号「編集後記」
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by isoamu
| 2007-08-19 14:37
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