2007年 06月 09日
ユニバーサルデザインの限界
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ある開発機種の設計リーダーが「ユニバーサルなものを・・・」とデザインに要望。
「長期間に渡り使用されるものであり、特定のターゲットに絞りたくない」 「どのターゲットの要求にも応えるものにしたい」
極めて妥当な意見であるが、危険でもある。
マーケティングのセオリーと重ねると理解できる。例えば、ファッション業界で「ユニバーサルなもの・・・」というのは成り立つであろうか?
「女子高生から、お年寄りまで幅広く支持されるファッション」という戦略は、通常のマーケティングではあり得ない。双方のニーズは決して相容れるものではないのだ。結果、どちらにもそっぽを向かれて終わるのが関の山だろう。
特に今回の開発機種は、圧倒的なシェアを持つ先行企業に対して、いかにシェアを勝ち取っていくかが大きな命題である。「ユニバーサルなもの・・・」は、シェアを獲得している側の戦略で、これから切り込んでいく側が彼らと同じ戦略を取ってしまっては勝ち目はない。特定のターゲットに絞込み、一点集中して突破する意識が必要のはず。
「ユニバーサルなもの・・・」
理念としては分かるが、、市場導入戦略として捉えない方がいい。
「ユニバーサルデザインで新たな市場を獲得した事例はある」との反論が聞こえてきそうだが、それは今まで相手にしてこなかった新たなターゲットにフォーカスして市場を切り開いただけで、決して「ユニバーサルなもの・・・」になっているわけではない。
以下の事例などはその最たるものだ。
2004年にGマーク・ユニバーサルデザイン特別賞を受賞したTU-KA TK50(下図)
「ターゲットは、自ら電話をかけることが少なく、受けることがほとんどといった50代以降の年輩層、特に携帯電話を初めて持つ年輩層に絞り込んだ」
[2004 GOOD DESIGN AWARD 開発デザイナーの主張]
ターゲットを絞り込んでいるのに、なぜ「ユニバーサルデザイン特別賞」なのか?
ロナルド・メイスはユニバーサルデザインをこう定義している。
「できるだけ多くの人が利用可能であるように製品、建物、空間をデザインすること」
前述のTUKAの携帯電話は、今まで相手にしてこなかったターゲット(リテラシーの低い層)に絞り込むことで、確かに、「より多くの人が使える」ようにはなった。しかし、「使える」ようになったことと、より多くの人の嗜好にあうかどうかは、全くの別問題だ。私はこの携帯電話を使うことは出来るが、決して買いたいとは思わない。
アクセシブル(使えるか使えないか)になることと、商業ベースで成功することを同軸で考えないほうがいい。にも関わらず、万能のアプローチがごとくユニバーサルデザインが語られているのには辟易してしまう。そして、万能でないことを論って議論するのも意味が無い。
「ユニヴァーサルデザインは ~中略~ エコロジー(生態系保全)やサスティナブルデザイン(持続可能なデザイン)の考え方をも貪欲に包み込んで拡大する可能性を持つ概念なので~」
「インクルーシブデザインハンドブック 超高齢化社会「日本」におけるインクルーシブデザインの意味」
こうして益々実態とかけ離れた定義をしてしまっては、ユニバーサルデザインの理念自体も否定されかねませんよ。
ユニバーサルデザインは、単に「今まで使えなかった人にも使えるようにすること」
ただそれだけのこと。
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by isoamu
| 2007-06-09 22:18
| ユニバーサルデザイン