2012年 11月 28日
【書評】自分たちで創るオフィスのススメ「make space」
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MAKE SPACE メイク・スペース スタンフォード大学dスクールが実践する創造性を最大化する「場」のつくり方
キレイに仕立てられた最新のオフィスに入ると「いいなぁ」とつい口に出る。そして最近では、コラボレーションを誘発する仕掛けがあるオフィスも見かけるようになったが、つい「楽しそうだなぁ」と声が漏れる。
でも、なにかよそよそしい印象が拭えない。そして、その多くは、事業主から従業員に"与えられている"ものだ。
「make space」は、その関係性を問うている。デザイン思考の文脈で多くの企業がそのプロセスを模する「d-school」では「そもそも我々には十分なスペースが用意されていなかった」という。本著では、オフィスを作りあげるプロセスを紹介しているのだが(なんとDIYで作れる廉価なオフィスツールや、その材料の販売店(北米内)まで) 、一貫しているのはオフィスに対して"主体的であれ"ということ。
「人は環境に影響を受けやすいもの」とした上で、だとしたら「イノベーションを誘発するため積極的に環境を工夫しよう」という。更には、自分たちで環境を創り上げれば、愛着がわき、その環境はますます活性化すると。
話は変わるが、欧米人は、部屋の飾り付けに戸惑いがない。サンフランシスコでホームステイした家のリビングは、家族の写真フレームでびっしり埋め尽くされていた。また北欧留学中に感じたことだが、現地の学生は入居してすぐに部屋の飾り付けをする。一方、日本人の多くはスッピンのまま過ごし、そのまま卒業する。
日本人と環境の関係性は、欧米とそれと比べて希薄なのかもしれない。よってもっぱら事業主から与えられるオフィス環境に、無関心でいられる。僕らはそのオフィス環境に主体性を持たない。
それが不幸にもキレイに作られたオフィス環境ほど助長される。"汚してはいけない"という強迫観念が人を管理思考にさせる。
「make space」を読んで思い出したのが、山口県や浦安市にある特別養護老人ホーム「夢のみずうみ村」だ。
廊下には、いろんな貼り紙がされ、大小バラバラの家具が置かれる。それが一つのトーンにもなっていて、まさしく渾然一体。因みに部屋の飾り付けは、二人以上が賛成すれば、理事長の判断を仰ぐことなく実施出来る。逆に理事長も、もう一人の賛成がいる。
介護施設なのにバリア"アリー"なのだが、これは理事長の「ここは社会に復帰してもらう場所。そもそも社会はバリアがあるのだから、リハビリという観点でバリアを体験してもらわないといけない」という。今では見学者が絶えない介護施設の先端事例となっている。
「d-school」と「夢のみずうみ村」の環境には大きな共通点がある。そもそもイニシャルが抑えられていること。「d-school」では「専用のスペースは用意されなかった」というし、夢のみずうみ村は「最初はただの倉庫だったよ」という。
最初から立て付けされていないからこそ「ここに○○飾ってもいいかなぁ」とか「さぁ、どう工夫しよう?」など人が関わる余白を生み出す。それが環境と人との関係性を柔軟なものとし、かえって環境に対する愛着を育み、結果として環境と共に成長する働き手/住み手が生まれる。
「make space」は、単なるオフィス環境を作る手引き書ではなく、日本人とオフィス環境における関係性に一石を投じている。それはおそらくオフィス環境に限らず、家族、地域、学校などすべての関係性に対する問いかけなのかもしれない。
by isoamu
| 2012-11-28 16:50
| デザイン全般