パーソナルモビリティの開発について
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先日も私などにパーソナルモビリティについての取材に来るくらいだから、現場はかなり混迷しているのではないか。新しい市場としての期待感と高齢化社会におけるニーズがその背景だが、その普及のためには福祉と補助から切り離し、通常のマーケティングが出来るかどうかがポイントのように思う。
<用途提案の細分化>
今、カタリストBAに置いている「Travelscoot」を見れば、1人乗り電動スクーターなどモーターと電池という単純な駆動系で作れてしまうことがわかる。中小企業でも制作可能で運輸関連以外からの参入が増えている。大手自動車メーカーは、車道/歩道をシームレスに移動出来る、もしくは状態を傾けるだけで走行できるリッチな仕様を模索しているが、中国でモビリティを研究する清華大学のヤン教授は「少なくとも中国市場においては必要最小限の仕様でいい」という。アジア市場においては価格適応性が優先する。日本市場においても20万円を切ることが普及の条件というのが通説だ。
欧州市場を見れば、福祉機器市場から発展した電動モビリティに大手自動車メーカーはいない。わざわざ自動車と比較し利益率の低い商材に手を出すとも思えない。暫くは、多種多様な中小企業の参入によって、様々な用途提案が進むと考えられる。とするならば、きめ細かくユーザーシナリオを拾うプロセスが必要だと思う。
<用途とのセット販売>
初期には、具体的な使い方や使う場所も含めた商品訴求が必要だ。それには製造メーカーのみならず様々な業態とのコラボレーションを進めていく方がいい。モビリティ特区で実証実験が行われているが、価格適正のない商材で実験しても、後の広がりは期待できない。商品力のあるものを使ってこそ、後のビジネスに展開しうる。10年以上前に経産省の肝いりで進められたタウンモビリティは、上手くいっていないのが定説だが、貸出場所までの移動手段が充実している都心では、まだまだ可能性はあるように思う。
<安全性確保におけるビジネス>
ナビゲーションをつけ自立移動させるモビリティを志向するプロジェクトも多いように思う。ただ今の交通環境において、確実にナビゲーションしきるのには相当な技術革新が必要。特に歩行空間の移動において頻発する突発的な障害物をどう除けきれるのか、まだまだ時間はかかる。しかし、スバルのレガシィのiSightのように衝突防止に限定した安全性確保には現実味がある。その安全性の担保をどこまで求めるのかが課題だが、商品の位置づけ(例えば、福祉用具ではなく自転車)をうまく落とし込んでいけば、ステレオタイプな安全志向を回避できる可能性はある。
<保証のスキーム>
乗り物である以上、人身事故に対する補償問題が常に伴う。中小企業にとっては大きなリスクで、これを回避出来るビジネスがあり得るのではないか。「コアのパーツを採用すれば、補償も一緒についてくる」そうしたスキームが出来れば、開発にも弾みがつく。
<福祉志向からユーザー志向へ>
市場の可能性は指摘されるが未だニーズが顕在化しているとはいえない。現にシニアカーの市場は2007年をピークに下がっている。街区や運輸の整備も課題であるが、現状の環境下で快適に使うことができるカタチの可能性がまだまだ残されている。今のパーソナルモビリティのデザインは理念や設計発想のものばかりで、ユーザーをきちんと見ていない。