2010年 09月 12日
”信じきれるか”どうか
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ジャーナリズムが常にネガティブである理由は、”私たち”にある。良いことよりも、悪いことのほうが話のネタになる。しかもそれはよりセンセーショナルなものの方が友人を驚かすことができる。
先日、Crossing Bordersで行ったエクササイズは、少し長めのおとぎ話を14人で語り継ぐというものだった。14人目には極めてシンプル、且つ大きく湾曲したものになった。最後には14名全員の伝言映像を再生し(上写真)、どのように物語が湾曲されたかを共有した。そもそも母国語を使わずに行うのだから、伝言者の語彙に応じて表現はいとも簡単に変わる。これは私たちが得ている情報がいかに”不確か”であることに対する問題提起でもある。
実のところ、私が書いているデンマークも、ひいき目に読んで頂いたほうがいい。誰しも自己が選択した留学先のことを悪くは書けない。書いたとしたら、それは自己を否定することになる。日本では経験し得ない新鮮な価値観の真っただ中にいるかのごとく書いている、ということを告白しておく。ここにもジャーナリズムの本質がある。
一方、これを逆説的に利用しようとする動きがある。世界が抱える貧困問題、性差別、教育問題などは悲惨な現実を伝えるのが通例だが、良い面を伝え、社会をポジティブに啓発しようとするものだ。例えば、世界の子供の通学率を「未だ7200万人の子供が学校に通っていない」に対し「世界で90%以上もの子供が学校に通っている」と伝えるのとでは、受け取り方に大きな違いが出てくるのではないか。私自身も「MDGs」の8つのゴールに対し、非現実的だとして悲観的であった。しかし、前述の通学率に加え、1990年以降の冷戦終結後に著しくアフリカの政情は安定し、貧困率も大きく改善している等のデータを見せられると「Yes,We can」などとオバマ風に信じたくもなってくる。デンマークのNGO「Form」では「VERDENS BEDSTE NYHEDER (World's Best News)」と題したサイトを通じて、こうしたポジティブシンキングを啓発する。
- The number of poor Africans has decreased from 52 to 40 percent
- The proportion of people living below the poverty line has fallen from 46 to 27 percent in the period 1990-2005. And the figure is expected to fall to 15 percent in 2015".
via : Verdens Bedste Nyheder
先日コペンハーゲン市内を中心に行われた啓発キャンペーンでは、早朝に「World's Best News」が掲載された新聞、包装紙(朝食代わりのパン付)が配られた。私たち「Crossing Borders」も配布に参加すると共に、簡単なインタビュー(What do you think will you make the world a better place for all of us?)を行った。これは今後ネットに掲載するなど発信していく予定だ。
個ではどうしようもない世界の事象でも、全ては個の思いから始まっている。”信じられるかどうか”という受動態ではなく、”信じきれるかどうか”という能動態の姿勢が、私たちに問われていると思うのである。
by isoamu
| 2010-09-12 02:38
| デンマーク