民主主義を構成する市民
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「Krogerup Højskole」の創始者は政治家の輩出を目的としたという。大きな成果は上がられなかったと現校長は謙遜するが、数名の地方自治のリーダーがここから育っていったという。現在は「ドキュメンタリーフィルムを制作しジャーナリスティックな思考を養成するコース」「アフリカ・メキシコなどの新興国をめぐり知見を広げるコース」「写真・音楽・陶芸・社会学・国際情勢など本校が用意するカリキュラムを自由に選択するコース」そして「インターナショナルな生徒間で国際情勢に関する対話と自身で世界を俯瞰できる能力を養成するコース(Crossing Borders)」がある。私は「Crossing Borders」を選択している。本コースについては別稿で述べるが、入学早々に生徒全員で行ったエクササイズがユニーク。幾つか印象に残ったものを紹介する。

まず二人一組になって毛糸を持たせる。その後、教官が真ん中を摘み中央から放射線状に毛糸が広がるようにする(上写真)毛糸の中央にはペンを垂らし、更にその下に瓶を置く。準備としてはここまでで、あとは100人近くの学生全員で共同して中央のペンを瓶の中にいれるというエクササイズだ。当然、身勝手に動いてはペンは動かない。全員が同時に動く必要がある。そのためにはリーダーを決めないといけない。リーダーはペンと瓶との位置を図り全員に指示をする。全員が民主主義を構成する一員であること、そしてその民主主義を運営するためにはリーダーが必要であることを暗示させる。
次は8名程のグループでのキャッチボールだ。教官は特に指示をせず無造作に人数分のボールを渡す。まずはランダムに投げ合うのだが、どちらが先に投げるかなどルールを決めないとうまくボールの受け渡しができない。慣れてきたところで、教官はグループの一人に目隠しをして真ん中に立たせる。キャッチボールが成立させるためには、誰かがルールを決め、目隠しされた生徒と他全員に適切な指示をしなければならない。ここでもリーダーとルールが必要であることを暗示させる。

次は幅5センチほどの木を両側から渡らせるというもの。ルールを決めるなど協力し合い、お互いが無事に橋に渡れるようにする。こうして生徒間の交流を図らせるのと同時に民主主義を構成する要素を疑似体験させわけだ。
そもそもホイスコーレンの理念は、民主主義の構成員たる市民を育てることを一つの狙いとしている。カリキュラム自体は現代の若者の志向に合わせ多様化しているが、学校運営においては極力生徒の自主性を尊重した方針が貫かれる。また生徒自身も、ミーティングで静まり返ることはなく、必ず誰かしら発言する。そしてヘルプを求める学生、学校運営においても、すんなり立候補者が出る。アフリカから来た教官の一人は「デンマーク人は教官の話を(質問で)止めるのが得意だ」ともらす。
本来学校とは、知識を習得するだけでなく、その民主主義国の市民たるべく素養を身につける場でもあるはずだ。それは学生にとっての社会である学校でしか体現出来ない。習熟度のみに意識がいく日本の学校運営が塾にとって変わるのは自明でもあるように感じる。