2010年 08月 15日
VCD(Vision Centered Design)
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先月、Cambridge大学の工学科でインクルーシブデザインの研究をしているIan氏にお会いした。Ian氏からは「Inclusive Design」と題されたスライドで、その社会的意義から実例などを紹介頂いた。
「高齢化に伴う身体能力の低下」「障害の多様性」「高齢者と若年者のギャップ」「可処分所得と自由時間の相関から推測した65歳前後のマーケットの可能性」「眼鏡/タイプライターが福祉用具から一般製品に転化した事例」「フェラーリのアクセシビリティ向上を謳った開発事例」「高機能化が必ずしもユーザー本位にならないこと(MS Word 1.0 は100種の機能、Word 2003は1500種の機能)」など、若干判を押した感は否めないが、客観データを積み上げて幾分かの切迫感を煽る展開は説得力がある。氏も関わられた「Inclusive Design Toolkit」に掲載されている障害度合いをシミュレートするツールは、啓発活動に有効だろう。このツール開発には「Helen Hamlyn Centre」も協力メンバーとして名を連ねる。上の簡易グラスは視覚障害を疑似体験するもの。
さて、ひと通り互いのバックグラウンドを共有したあとに話題になったのは、大きな組織ほど陥るイノベーションのジレンマだ。もはや世界の共通言語:-)であるiPhone、iPadの事例を持ち出しながら、HCD(Human Centered Design)ではなく、VCD(Vision Centered Design)に向かうべきであるとした。これは既に表現を変え様々な論旨が展開されていることだろう。そして彼が、一連のHCDプロセスのセンターにビジョンを置いた方がいいとしたのが上の図だ。円弧に沿うキーワードはPDCAでもいいのだが、円弧の外方向にユーザーとの接点を持ち、内方向にビジョンとの接点を持つ。ビジョンは常に反芻すべき基軸としてセンターに置かれる。ユーザーはステップ毎に方法論が変わることから外周に置かれる。当然、円弧の循環はスパイラル的に向上していく。以前、デンマークのIT系リサーチ研究機関「The Alexandra Institute」ともこの話題になったのだが、次の問題意識はそのビジョンをどうしたら持ちうるかということだ。
ビジョン〖vision〗
将来の構想。展望。また、将来を見通す力。洞察力。「リーダーに—がない」「—を掲げる」
しかし、この問いかけ自体が、実はビジョンの本質から外れている。過去と現在の客観データを積み上げる方法論は数多存在するが、その先の将来構想は極めて主観的なものだ。構想、洞察というのは内的動機そのものであるから、それがある方法論に沿って導きだされては主観性を失いかねない。ただ資質を磨くという行為はありうるだろう。
by isoamu
| 2010-08-15 04:26
| インクルーシブデザイン