2010年 07月 22日
スッピン化と価値のすり替え
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EU圏内で営業している格安航空会社easyjetである。数回利用したが、予約サイトが極めて分かりやすく、そして、しつこいのである。
TOP画面から発着空港/日程/人数などの最低限の情報を入力すると、直ぐに価格表が表示される。ユニークなことに前後3~4日間内(早朝深夜含む)の最安値を表示してくれるのだが、多数候補の中から選択できる安心感があっていい。以降ウィザート式(画面が変わるごと)に「荷物(手荷物以外)は課金されます。今予約すれば半額」「スピーディーボーディング(以下参照)は?」「スポーツ用品は課金されます」「カーボンオフセット活動に寄付を」「旅行保険は?」「現地でレンタカーは?」「ホテルは?」とお勧めが次々と表示されるのだが、いつまでつづくのかな、と思うのである(結局、旅行保険は買ってしまった)
サイト上でチェックイン(手荷物のみの場合)出来るのはいい。表示画面がそのままボーディングチケットになるのでプリント持参でダイレクトにゲートインできる。因に座席予約はなく基本的に全席自由席だ。さて搭乗して席に座ると、前席のヘッドカバーに「(機内での)新聞、雑誌はいかがですか?」と広告が目に入る。以降、アテンダントから「新聞、雑誌は?」「飲み物、軽食は?」「デザートは?」「お土産は?」「電車チケット、ホテル、レンターカーは?」最後に「チャリティーに協力してください」と続く。いずれも有料であるが、ちょっと静かにしておいてくれ、と思うのである(無視すればいいんだけど)
ただいずれも感心するのは、従来含まれていたサービスを全解体し”スッピン”の搭乗券で価格を抑え、一方、解体したサービスも個別商材とし、一部には”価値のすり替え(あったらいいでしょ)”をした上で新たな商材にしている点である。
例えば、座席予約を排除し”並び順”による自由席にしているのだが、それに対し「スピーディーボーディング」という優先搭乗サービスを43£で提供している。その宣伝文句には「長い列をやっつけちゃえ! 友人、家族同士で固まっても座れるよ」と謳うが、そもそも長い列ができないようにするのが航空会社の責務だと思うのである。
あるいは「遅れても待たないよ!」とボーディングチケットに明言しているのだが、同時に「もし遅れても大丈夫。次のフライトを追加料金40£で確保いたしますよ」とも謳っている。遅れた乗客を館内放送で呼びかけるのは馴染みの光景だが、それを放棄する替わりにフライト予約の優先権を販売するとはなかなかのものである。これは、未搭乗者を待たなくてもすむ既搭乗者の合理性もある。
企業姿勢の訴求についても、easyjetはヨーロッパ圏内のサービスに限定しているが、それをして長距離運行の航空会社よりCO2排出が少なく環境配慮型航空ビジネスだという。結果的にそうなっているだけだとも思うが、きっと長距離運行に参入したとしても「小型機体でCO2排出○○%ダウン」とかなんとかひねくりだしてくるのである。
ここで思い出すのはApple CareというApple商品の長期保証サービスである。Apple製品の不振な挙動に何度も冷や汗をかいた私にとっては、非常に魅力的なサービスだが、そもそも安定して壊れない製品を作って欲しいものである。それを棚に上げておいて「格安で保証しますよ」とは何ともやるせない気になるのである。前職でもGEメディカルのそれが話題になったものである。機器は安く売って保証サービスと消耗品でビジネスをするというものだ。
そこへいくとトヨタは大変である。イギリスの広告だが「Your TOYOTA is My TOYOTA」として完全5年保証を謳う。イギリス現地の従業員は「もし何か不振に感じることがあったら、私はいつでもラインを止めて検査できる権限を与えられているの」と説明する。そもそも命に関わる商品でもあり、リコール問題も絡んでのことだが、Appleなど、うまくいかなかったらOSアップグレード「Now Available!」である。産業種によってこうも対応が違うとは、トヨタもほとほと自分の身の上を嘆いたに違いない。
さて先日グラスゴーで宿泊したホテルには、環境配慮のため「タオルとシーツは2日に1回の交換にいたします」とのチラシが置かれていた。翌日シーツのしわが残ったままベットメーキングされていたが、まあさして影響はないか、と思った。考えれば、スーパーの袋も有料になって久しい。サスティナビリティ社会に向け、今後、当たり前だと思っていたサービスはどんどん解体されていく。この観点においても商品の”スッピン化”が進むのである。
さて企業は、コスト競争とサスティナビリティの観点において、商材の”スッピン化”は進めざるを得ないと思うのである。と同時に解体されたものの”価値のすり替え”をスマート(気ずかれずに)に行い、ポジティブに訴求できるかどうかである。その際、利用者側は、”あったらいいよね”ではなく、”なきゃこまる”ものを選択する必要(それに金を払うかどうか)がでてくる。
サスティナビリティは我々に選択を迫るのである。
(※)Best Airplane Website by Travolution, the UK's leading online multi-media travel industry publication を受賞している(受賞年不明)
by isoamu
| 2010-07-22 16:51
| サスティナビリティ