2010年 07月 04日
Accessible to Enjoyable 〜The Mobility Roadshow視察〜
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これはメチャ楽しかった。
Londonから電車で1時間程にあるPeterborough近郊で開催されたThe Mobility Roadshowを視察した。車イスユーザー、高齢者のためのモビリティツールを中心に展示している。展示スペースとしては屋内外含め日本の国際展示場の西ホール程度だろうか。屋外展示では来場者が実際に試乗できるようになっている。展示メーカーは150社弱。特徴的な展示品を順に紹介する。
電動カートは”Carry and Ride(運んだ先で乗る)”を志向した小型・軽量化が大きな傾向だろう。その多くが車の荷台に載せられるほど小さく、もしくは折り畳めるようになっている。中にはスーツケースに収まることを謳ったモデルもある。そして車、バイクさながらに様々なバリエーション展開をみせる。悪路での走破性向上を狙い柔軟な駆動系を有するもの、雨天などでも快適に走行できるよう全面カバーされたもの、タンデム乗車、長距離の快適性向上(タイヤ径拡大+サスペンション改良)、多機能なラグジュアリータイプ等々。来場者が使用するモデルには太陽電池を装着しているものがあったが、こうしたニーズも今後増えてくるだろう。エグモントホイスコーレン在学中に、電動カートを使う学生と自転車でサムソ島のツーリングに出かけることがあったのだが、充電先を見つけるのに苦労した覚えがある。こうしたモビリティが街の中で安心安全に可動するためには、バッテリー性能向上、太陽電池によるテンポラリー発電などモビリティ単体の改善のみならず、充電ステーションなどインフラ構築も必要だ。電動カートは超高齢化社会における今後の街づくりと新産業発掘の大きな基点になると思う。このツールがアクセスタブルになる環境は、様々な交通手段(電動アシスト自転車、電動車イス等々)を受け入れられるユニバーサルデザインになるばかりか、自動車の代替としてサスティナビリティデザインの可能性もみえてくる。因に形状デザインも非常にバリエーションに富み、そしてよりスタイリッシュになっている。引け目を感じず使用できるクオリティだろう。
マニュアル車椅子はアシスト機能の充実が一つの傾向だ。車軸電動アシスト、車椅子底部に装着された小型電動アシストをシーンに合わせて使用するもの、”タイヤを回す”のではなく”レバーを引いて”移動するものなど。アウトドア向けはスタイリング含め非常に魅力的なモデルが多い。後端に車輪を配し転倒防止を図ったもの、ギヤ+ディスクブレーキ+レバー駆動のもの、ビーチで使用できるよう幅広タイヤを履くものなど。そして、特定のスポーツ用途も健在だ。ハの字型に配されたタイヤをもつもの、衝突用バンパーを持つもの、ホイールカバーデザインは百花繚乱。それにしても、こうした行動範囲を拡大するツールは、どうしてこうも気持ちを前向きにさせるのか。
自転車も様々なタイプが展示されていたが、様々な乗車スタイルに加え電動アシストが標準仕様化してきている。電動アシスト+並列二人乗り、電動アシスト+車イス搬送用自転車、電動アシスト+後傾乗車など。何台か試乗してみたが、電動アシスト、イイ。これは癖になる。
電動車椅子もアウトドア用途を想定したものが多い。完全防水で長距離移動を想定しバッテリーを2個装着できるもの、車輪間隔を広くとり安定性を高めているもの、ワイドでグリップ性を高めたタイヤをはくものなど。また自動車乗降も従来通り大きな課題だろう。自動車シートがそのまま電動車イスの駆動部にスライドセットできるものなど。自動車側にも様々なソリューションが用意されているが、これはまた後述する。非常にユニークなのがゴルフ用途のものだ。ゴルフ場の様々な路面(芝生、傾斜、バンカー)を走破できるよう装備され、且つスイング時には立ち姿勢にポジション変更出来る。更にはキャタピラがついて悪路での走破性を高めたものなど。形状デザインもよりスタイリッシュになってきている。形状に特徴を持たせられるのは、シート下の駆動部だが、デザイナーの意識の変化と丁寧な作業を感じる。一般的なモーターサイクルデザインに近づきつつある。
自動車に目を向けよう。大きなトレンドはなんといっても車椅子からの乗降性だ。車椅子の収納に関しては、天井カーゴに収納するもの、自動車後端のトランク部から運転席近傍までリフトアームがリーチするものなど。車椅子のまま乗降するタイプは、自動車後端からそのまま運転席までエントリーするもの、室内中央部でドライバーシートに乗り移れるもの、助手席側から電動車イスのままエントリーするもの(30~40秒で乗降可能)など。
本展示会はレジャー関連も充実している。車イスユーザーのクライミング、上肢だけで運転できるゴーカート、アーチェリー、バスケット、ダンスなどは、その場で体験できる。またリフト付キャンピングカー、メディカル支援が付帯したリフト付大型バス旅行サービスなど幅広いソリューションが展示されている。体験コーナーこそなかったものの、車イスユーザーのフライト、ライフル射撃の支援組織の紹介もあった。
さて、私にとっては初出のツールばかりで非常に楽しく視察することができた。丸一日展示会に居続けるなんてほとんどないのだが、ツールの体験含め終日時間を費やしてしまった。それにしても、この来場者の意気揚々とした表情はなんだろう。自分のものと比べながら「値段は?」「使い勝っては?」とショッピングをするようにイベントを楽しんでいる。アウトドアライフなど、今まで想像すらしなかった活動への可能性を示唆するものが多いが、だからこそ誰しもワクワクさせられるのだろう。こうしたポジティブなツール選びはとても素敵じゃないか。「Accessible」から「Enjoyable」への意識変革だ。
そして来場者に高齢者が多いのも印象的だった。こうしたモビリティツールとモビリティ環境の開発改善による高齢者の活動範囲の拡大維持は、今後の日本の大きな課題であることは間違いない。モビリティイノベーションはサスティナビリティ社会にも大きな影響力をもたらす。これは当事者へのメリットのみならず、ビジネスの可能性も大きく示唆する。これ、日本でもやりたい。
by isoamu
| 2010-07-04 18:40
| 福祉