2010年 06月 30日
一生つづく問いかけ
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先週末にエグモントホイスコーレンの2010春コースが終了した。今後どうするか、について日本人の同級生及び卒業生に尋ねてみたところ「これから手縫いの靴をやってみたい」「エコビレッジなど自然と暮らす生活をしたい」という答えが返ってきた(※1)そもそもは彼らは元福祉従事者であったり、もしくは福祉に関心があってこの学校を選んできている。しかし彼らは別の道を歩もうとする。
ホイスコレーンは「生の学校」と呼ばれるように、共同生活を送りながら体験と対話を通じて内的な気づきを得ていくことを目的とする。全生徒は学期初期に目標シートを記入しコンタクトティーチャーとの対話を持つが、そこにはこういう問いかけがある。
「あなたの人生の目的はなんですか?(意訳※2)」
私は「自由であること」とした。
本校の理念の一つに「自己決定」がある。全ての授業において、教官はアドバイスこそするが、必ず本人の選択を尊重する。言語の問題で日本人には難しいであろうカリキュラムにも、まずは参加する機会を与えてくれる。本学期ではないが、近隣で行われていた手作りのヨット制作に興味をもった学生は、授業に参加せずその制作に専念させてくれたという。そして時折、この「自己決定」について、他の理念である「自己責任」と「連帯」も絡めての問いかけと対話をもつ機会を与えられる。対話の内容に対して、教官は自分の意見はいうが、決して結論も導くようなことはしない。
これは本校に限らない。私が訪問した様々な施設でもこの意志は尊重される。幼稚園であれば、園児の遊びの選択に規制をしない。小学校においては、生徒たちの意志で席配置を決め、生徒同士の対話を通じて学習を進めていく。高齢者施設でも同じだ。今までのライフスタイルをそのまま持ち込み、自分のペースで起床も食事の時間も決めて過ごす(※3)(関連記事:国民学校、農家の幼稚園、住宅のような施設(デンマークの高齢者センター))
本校に関わりのないデンマーク人も、アパレルの商品企画者から教師に転身、ITエンジニアからパイロットに転身など、職業を大胆に変える人が多いと聞く(※4)因に、私が20年間同じ会社にいたというと、かなりの確率で驚かれる。もちろん何かを成すべく同じ職業に拘る人もいるが、どちらかと言えば、自分の意志に従い自由に職を選択するというスタンスだ。
思えば、日本は「自己決定」するのが難しい。周囲は常に忙しく動き回り、新しいものを求め、流行はあっという間に広がる。「あの人も頑張っているから、私も頑張る」など、僕らは常に周囲を意識する価値観の中にいる。知らぬ間に自分を他人と比べることに長けてしまう。自分の幸せを、他己との比較でしか判断できなくなってしまう。情報化社会でもある。常に人の意見に晒され、結局、自分の根っこがどこなのかと自分自身でさえ分からない状況に陥ってしまう。情報化社会は、時空を超えた英知の結集に長けるのと同時に、自分を見失いやすい社会でもある。
また雇用の流動化が言われて久しいが、生活費含め社会保障、福利厚生を企業に大きく頼る人生設計は依然と変わらない。転職が好機である時期は非常に限られていて、長く居ればいるほど、変化への対応能力の減衰とともに、他には移れなくなる。その企業の存続が保証されたものでないことは誰しも分かっていながら、僕らにはそれ以外の選択肢は用意されていない。「自己決定」が尊重されるためには、決定に足りうる選択肢が用意され、且つ選択できる環境が用意されていなければならない。これがあってこそ「自己決定”権”」は存続しうる。
こうした環境下にいた僕は「あなたの人生の目的はなんですか?」と問われた時、途端に思考停止に陥る。ただこの問いかけに対する内的思考が、本校及びデンマークに住んで最も学んだことなのではないか、と思っている。そして、自由でありたいと思う。本当に自分の意志に充実に意思決定できたのであれば、これほど幸せなことはない。「融通無碍」 そうありたいと思う。冒頭に紹介した彼らも、こうした自身に対する問いかけを元に、これから進む道を決めたのだと思う。
自由であることは難しい。生活するに足りうる収入も必要、子供の教育費、老後の備えなど心配すればきりがない。自由、誰しもそうでありたいと願っているはず。だからこそ、もし死ぬ前に、自分自身の意志に忠実に生きてきたと思えたならば、これほど素晴らしい人生はない。ただきっとその瞬間まで、この問いかけはつづくのだと思う。
(※1)本校のデンマーク人においては、私が聞いた限りだが「ソーシャルワーカー」「セラピスト」など福祉関係の職業を目指している学生が多いように感じた。実のところ、彼らの文化であるホイスコーレンも学校存続を目的に近視眼的な目的志向になってきている。例えば、肥満向けのダイエットコースを用意するところもある。
(※2)シート記載の全原文(Danish and English)
Danish__________
Læreplan for student
Generelt
Mine overordnede mål
Omverdenes mål (forældre, myndigheder osv)
Mine personlige mål
Det nuværende arbejde med mine personlige mål
Resultater af arbejdet med mine personlige mål
Mine sociale mål
Det nuværende arbejde med mine sociale mål
Resultater af arbejdet med mine sociale mål
Hvordan kan liniefaget hjælp mig til at nå mine mål?
Hvordan kan modulfagene hjælp mig til at nå mine mål?
Hvordan kan mine kontaktl rer hjælp mig til at nå mine mål?
Hvordan kan mine hj lpere hjælp mig til at nå mine mål?
Hvordan kan de praktiske afdelinger hjælp mig til at nå mine mål?
English (by google translate)__________
Curriculum for student
General
My overall goal
Surrounding world goal (parents, governments, etc)
My personal goal
The current work with my personal goals
Results of work on my personal goals
My social goal
The current work on my social goals
Results of the work on my social goals
How can the line professional help to me on my goal?
How can module subjects help me on my goals?
How could my contact teachers help me on my objective?
How could my hj LPs help me n my goals?
How can the practical departments help me on my goals?
エグモントは、10代の障がい者が、初めてヘルパーアシスタント制度下でヘルパーを雇用するなど、自立に向けた準備期間としての性質もある。設問の後半はそれを問うている。
(※3)集団行動に影響する部分もあるが、本校の校長、庶務は頻繁に日々の習慣について文句をいう、そして時間は比較的守られるなど規律という文脈も彼らは持っている。
(※4)リーマンショック以降の景況感から、企業の業績が冷え込み、職業の選択も難しくなっているという。自由を実現するにも一定の経済成長が必要。これは福祉政策においてもいえる。
by isoamu
| 2010-06-30 18:12
| デンマーク