2010年 06月 16日
農家の幼稚園 〜連綿と繋がる理念〜
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オーデンセ市内から車で40分程度のところにある幼稚園に訪問した。農家を改修した施設は、広大な緑に囲まれた素晴らしい環境。敷地内には食用の豚、山羊、鶏なども飼っている。当日頂いた昼食も先日屠殺した羊の肉とのこと(^_^; 60人の子供に10人の職員(その内テンポラリーが5名程度)が働く。
昼食以外に決められた時間割はなく、子供たちは伸び伸びと好きなことをやって過ごす。とにかく自由にやらせているという。物事は体験を通じて学ぶことが効果的だとする。だから多少、危なっかしいことをしていたとしても放っておく。そして失敗した時の気づきに価値があるとする。そもそも、”危ない”というと”本当に危なくなる”という。習うより慣れろといった体験型の保育を重視する。
敷地内には子供の自由気ままな遊びを受け入れる環境が用意されている。ブランコ、アスレチック、芝生(外で昼寝!)、木登り、泥んこ遊び、乗り物(いっぱい!)、砂場、そしてペタゴー(保育士に近い。ただ日本の保育士より職域はかなり広い)の目から逃れられるうっそうとした茂み(子供の創造力を育むのだそうだ)。また家畜の山羊、豚、鶏だって自由に触っていい。泥んこまみれは楽しみぬいた勲章だったりする。建物内にも子供の創造性を刺激する森の絵、ひそひそ話をしたり物語を聞かせる暗い部屋、一緒に料理をしたり観察したりできる開放されたキッチン(子供用にかさ上げしてある)
子供たちには共通の保育をしないように心がけているという。それぞれの子供の成長度、性質に応じて柔軟に対応する。子供の内的な自発をくみ取り、きっかけを与えてあげるような保育だ。例えば読み書きなどの学習は、興味がある子にはその機会を与えるが、そうでない子には与えたとしても効果はないとする。成長度合いによっては、国民学校(小中学校)の入学を留年させるのもいとわない。それが通例だという。
そして子供の社会性を観る。いじめている子には頭ごなしに注意するのではなく、いじめられた子がどういう状態になっているかを悟らせる。なかなか周りと打解けない子には、ひっそりとグループを変えてあげる。また子供の創造性を束縛しない。LEGOを使った遊びでも、予め○○を作ろうなどど創作対象を限定しない。
親たちと協力しながら幼稚園を作り上げるよう配慮している。年2回は”労働の日”として、親たちが集まり、様々な遊び道具、小屋などをボランティアで作り上げる。園内で朝食を一緒にしてから出勤する親もいる。時には親から身の上相談を受けることがあるが、子供を守るためには親も守る必要があるとして対応する。
園長に「もし日本の幼稚園長を頼まれたらどうするか?」と質問したところ「まずは共感できる同僚(同じ思想、教育方針)を探す。そして子供を少なく、大きな広場を用意し、好きなように遊ばせたい。特に外で遊ばせたい」という。彼女は日本の幼稚園、小学校に訪問したことがあるようだが、狭さと”同じ方向を向いての授業”がかなり印象的だったようだ。最後に「日本にもいい面がある。職員の表情、取り組み方は素晴らしかった」とのポツリ(フォローなんだかどうだか)
さて、こちらでは耳タコ理念の「自己決定権」だが、こうして子供の意志を尊重しているように、小さい頃から醸成するわけだ。これが国民学校、ホイスコレーン、障害者施設、そして高齢者施設へと連綿と展開される。同席した日本人は「(デンマークの福祉施設環境について)いいと思っても、日本に帰ると、いいねーで終わってしまう」ともらしていたが、そもそも彼らの価値観(理念)を前提として彼らの福祉政策は構築されているわけで、上辺だけ日本に持ってこようとしても、うまくいかないのは当然とも思える。僕らの価値観を変えない限り、それは日々の生活の中で周囲に容易にかき消されてしまう。
まずは、その方法論の基盤となっているデンマークの価値観の理解を深めたい。と同時に日本の価値観も再確認してみる。これらを常に対話と自問自答をしながら進めていきたい。一見すると合理的に感じるデンマークも多くの問題を抱え常に変化している。まずは”完璧を求めない”そして”全ては常に変化しつづける”ことを念頭におけば、とりあえず第一歩は踏み出せるはずだ。
by isoamu
| 2010-06-16 04:57
| デンマーク