住宅のような施設(デンマークの高齢者センター)
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ミゼルファート市にある高齢者センター(施設名:Eldercenter Egebo)に訪問した。ブラウン系の煉瓦とダークグレーの組み合わせで、なだらかな三角屋根を持つ。中の廊下は天井採光と白い内装が相まって、しっとりとした空間を作り上げる。典型的なこちらの定番だが、ヨーン・ウツソンのバスヴェア教会をも想起させられる。
デンマークでは要介護であっても普段の生活を継続すべきとして、”個室”の集合体であるプライエム(日本の特別養護老人ホームにあたる)の建設を中止(1989年)、あくまで”住宅”の集合体としての施設設計に移行した(関連:高齢者住宅、生活空間に介護サービス)本施設はデイケアと24時間介護を対象としたものだが、この設計方針が典型的に現れたものだろう。さて下の写真3枚、欧州住宅の一般的なリビングのようだが、皆さんはどのように感じるだろうか。



これら全て、この施設内の”個室”だ。高齢者はトランスファーショックとも言われるように、環境変化への適応が困難だ。自分が慣れ親しんだ家具、調度品を持ち込み自分の空間にすることで、トランスファーショックを抑え、今までの生活の継続性を図る。またこれは最後まで自宅で過ごしたいという人間の尊厳にもかなうものだろう。部屋は1LDKで43平米(2平米のテラス込)で、一人暮らしには十分だ。

設計上における”住宅”の定義は、キッチンがあるかどうかだという。これは衣食住の生活機能をもれなく有することを意味する。ただ若干手狭なキッチン。しかし、キッチンを持ち込むことで、客を招く、お茶を出す、簡単な食事を共にする、といった生活習慣を持ち込むことができる。要介護ともなれば、引きこもりがちであまり動かないのが常だが、キッチンによって体を動かすきっかけと社会的接点が演出できるというわけだ。テラスには花が生けてあるが、この手入れも大切な日課として日々の生活に潤いを与えるだろう。更に住所と電話番号も個別に設定されているという念の入りよう。トイレ、シャワー、洗面台が一体になったユニットバスは、スタッフ2人が介護できるのに十分なスペースを備える(6平米)因にユニットバスの広さは労働環境法(介護者の腰痛防止)で規定されている。この国では、狭い空間で介護をすると法に触れるのだ。

さてこの”住宅”っぽい個室を出ると、すぐそこにはコモンスペースが広がる。10人程度が集まれるダイニングキッチン、天井から採光が取り入れられた廊下。共有キッチンは上下移動が可能だ。スタッフ数66人(パートタイム含)に対し44人の高齢者!?。もちろん施設内には看護の詰め所もある。見学に同行していたリタイヤされたご婦人は「ここなら住みたい」ともらすが、そう思えるのも頷ける。日本にも素晴らしい環境をもつ高齢者施設はあるが、「高級高齢者マンション」と銘打たれているように一部の高所得者向けのものだ。こちらは市が運営し年金で賄える。

屋根伝いに少し歩けば、大きなダイニングキッチンがある。ここではお金を払えば好きな時に食事が出来る(アルコールもOK)日本の高齢者施設であるならば、スタッフが塩分の撮り過ぎなどかなり気を配るところだが、ここでは「自己決定」のポリシーから、あくまで利用者の意志を尊重する。アドバイスはするがダメとは決して言わない。
デンマークでは、高齢期を「第三の人生」と定義する(1980)「第一の人生」が教育、「第二の人生」が仕事、「第三の人生」をQOLの充実とした。QOL充実のためのポリシーが3つある。「自己決定」「(生活の)継続性」「残存能力の開発」だ。「自己決定」「継続性」は上記で紹介した通りだが、「残存能力の開発」は、極力スタッフが手助けをしないなど、自分自身で行うことを推奨する。これらにより、寝たきり”0”を目指しているという。本施設に住む利用者は自宅での生活が困難になったから移って来たわけだが、確かに寝たきりはいない。

デイケア利用者向けに宿泊施設が用意されているが、ここにもリフトが完備されている。ベットからトイレまでシームレスに移動できるが、因に介護者がリフトを使わないと労災がおりないのだという。腰痛防止のために労働環境法で規制されているのだそうだ。アクティビティで作られた各種雑貨類が販売されている。ボランティアも加わり、なんとも朗らかなアクティビティの様子(この日のアクティビティは、新聞読みとお茶をする(^_^;
参考
・デンマークの高齢者ケア