高齢者住宅
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デンマークではプライエム(日本の特別養護老人ホームにあたる)の新規建設が禁止(1988)になって以来、その代替として普通の住宅である「高齢者住宅」が供給されているという。居住環境への適応能力が低い高齢者にとっては、その環境移行が生活能力低下や家庭内事故に繋がる。依って介護が必要になってから施設に引っ越すのではなく、50〜60歳前後の元気なうちにこの「高齢者住宅」に引っ越す。当然、この周辺には介護が必要になったとしても継続して暮らせるよう24時間の在宅ケア体制が用意されている。本校の近隣にも高齢者住宅(施設名訳:シニアコーポラティブハウス)(上写真)があるが、簡単に紹介したい。

周囲は適度に緑に囲まれ、歩いてすぐに海にたどり着くロケーション。室内には入れなかったが平屋のワンフロアーでバリアフリーであることが想像される。上から俯瞰すると、小さな住居が少しずつずれて立地されているのが分かる。もしくは世帯の間に小さな倉庫が設置されている。適度に隣の気配を感じられる緩やかなプライバシー確保の方法だ。ハウス内の小道はそれに合わせて湾曲しているが、ズラされている家と相まって、歩くたびに景色が変わり心地いい。厳密に水平垂直を感じる区画設計は人間味が感じられないものだ。
人間は社会的動物とも言われるように、何かしらの社会的交流が必要だ。特に高齢期においては身体的な衰えより、社会的な役割と繋がりの喪失の方が問題だとする指摘もある。家の前には小さな庭があるが、その庭の手入れをしている住人に、通りすがりの客人が話しかけていた。庭の手入れという生活習慣が、外にでるきっかけを作り出し、そして草花自体も住人と客人との会話の触媒になっている。小さな社会的交流が住宅設計によって演出されている。
また玄関先にイスとテーブルを置いているのも、同じようなきっかけ作りに繋がる。特に太陽が好きなデンマーク人は戸外で過ごすことを好むが、暖かくなると近所の人たちと一緒にお茶を飲んだり、会話をしたりして楽しむ。きっと友人が外で過ごしていたら、声をかけたくなるはずだ。
またデンマーク人は自分たちで手作りすることを好む。工作室を併設している自宅も多いが、玄関先にこしらえた小さなギャラリーに手作りしたものを展示している住人もいるそうだ。このように玄関先をプライベートとパブリックが交差するコモンスペースとして解釈してあげると、いろいろ可能性が広がりそうだ。

駐車場もユニーク。円形上に車を駐車するようになっているが、いずれの車もフロントから駐車されている。帰宅時は進行方向そのまま車庫に入れ、出かける時には、切り返しが必要だが、切替しに十分な円形状の共有スペースが用意されている。そもそもバックで駐車するのは、なかなか骨の折れる作業だ。これは楽でいい。
こうした高齢者住宅の中には、まず一緒に暮らす住民を募集してから建築設計に取りかかるケースもあるようだ。「自分がどう暮らす」ではなく「みんなとどう暮らす」というようにコーポラティブを前提に暮らし方を考えるのも面白そうだ。
参考
・デンマークの高齢者福祉と地域居住(2005.10) 松岡洋子著
・Aging in Place エイジングインプレイス(2009.9) 大阪市立大学大学院生活科学研究科×大和ハウス工業 総合技術研究所 編著
・Vol.16マイホームの改修はこうする
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