福祉用具か、補助用具か(デンマーク ヘルス&リハビリツール展)
|

福祉関連用具で北欧で最大と言われる「HEALTH&REHAB」。サイト上に展示規模に関する基本データが見当たらないが、体感的には展示ブース、入場者数共に日本の国際福祉機器展H.C.R.の1/3程度だろうか。ただIT関連(情報保証等々)は対象になっていない(HITmesse 2010が相当する)。会場はCOP15も開催されたBella Center で、環境立国だけあってかエントランス付近には風力発電とその原寸大の翼が展示され、また街灯にもソーラーパネルが設置されていた。会場内は緑化と採光を十分に取り入れた心地よい空間になっている。 カテゴリー毎に紹介していく。



電動三輪車(四輪車)は非常に多くのバリエーションが各社から展示されていた。一見して確認できたものだけでも屋根付、二人乗り、レインフード付、ジョイスティックで操作するもの、旅行先に持って行けるよう畳めるもの、アウトドアでの走破性向上を狙ったもの、スタイルに拘ったもの等がある。こちらの街では必ずといっていいほど電動三輪車を見かけるが、そもそもデンマーク政府から購入代金の50%の補助がでるのだそうだ(ただ数年前までは全額補助)本校でも10名弱(160人中)の生徒が使用している。
ただこの電動三輪車の市場、販売数量などの数値データは見つからなかったものの、数多くのバリエーションを紹介するポータルサイト、英国におけるモビリティショーなどデンマークに限らず欧州全体に活気ある様子が伺えられる。そもそも移動という行為は社会との関わりをもつ大切な活動、これだけバリエーションもあれば出かけたくなるというものだ。
日本では高齢者が主体的に生活できる地域の要件として、”徒歩圏内”の生活拠点の充実が問われているが、この電動三輪車を街のインフラとして考えると、高齢者の行動範囲も広がり、街づくり自体もより柔軟性を持ってくるように思う。ただそのための専用通路などの道路整備、公共施設のバリアフリー、法規制など数多くの課題はあるのだが、これは車イスユーザー、自転車、乳母車など多くのユーザーに恩恵をもたらすはずだ。また充電スタンドなどの新たな産業を生み出す可能性もある。トヨタの1人乗り用ビークルも現実味を帯びてくる。
デンマークは自転車大国として有名だが、自転車専用道路に加え、電車などの輸送機関においても自転車を持って乗車できる等の整備がされている。これが結果として電動三輪車、車イス、乳母車のアクセシビリティ向上にも繋がっている。電動三輪車を徒歩、車、電車に加えて第四の交通インフラとして捉えると、おもろいことになりそうだ。

また電動三輪車を他の用途に展開しようとする動きもあった。このメーカーでは一般のワーカー向けに商品の搬送、患者の移送など特定の目的に特化したもの、またスポーツホッケー用など幅広い応用展開を見せていた。このように裾野が広がれば、主要駆動部及び蓄電部のコストダウンにも繋がる。質問に答えてくれた担当者は「まあ(成功するかどうかは)十中八九だ」とまだ暗中模索のようだったが。


歩行補助器は特に機能的な新しさはないが、どれも黒とシルバーを基調としたスポーティーなスタイルだ。中にはよりデザイン性を謳うものもある。日本は高齢者ユーザーの趣味嗜好を意識するためか”ステレオタイプな高齢者っぽさ”があるが、こちら歩行補助器の方がカラッとしていてユーザー層の拡大にも繋がるのではないか。上のカタログの使用シーンなど引け目を感じなくていいじゃないか。余談だがそもそも”福祉用具”という名称も好ましくないように思う。福祉という”施す”側の意向を感じる表現より、”アシストツール”のようにあくまで主体である利用者の活動を補助するツール、とした方がより普及も進むように思う。




電動車椅子は小型化と走破性向上、操作性においては液晶表示を採用し視認性を向上させたもの、また介助者専用の操作パネルを本体後側に設置するなどの工夫がみられる。外観に関しては利用者の状態にアジャストさせるためだろうか、調整箇所が露呈し物々しいものがほとんどだ。また食事介助用のロボットアームを装着したり、来場者の中には、荷台とiPhoneらしきものを3つ装着していたりと、このままいくと将来はガチャンガチャンと歩き出すところまでいくんじゃないかとさえ思えてくる。日本でもロボット技術の介護領域への応用が図られているが、そもそもロボット技術と福祉業界とは親和性が高いのかもしれない。


自転車も数多くのバリエーションが展示されていた。三輪車など走行補助的なものに加えて、自転車をこげるもの、こげないものが一緒に楽しむものが多いように思う。自転車大国ならではといったところだろうが、ここまでいくと何が福祉用具なのか分からなくなってくる。日本人が思い描くステレオタイプな障害だけでなく、ノーマライゼーションの解釈の広さゆえなのか(参照:福祉用具の定義)

こちらは肥満専用のツール類。最初は二人用だと思っていましたが、確かにポッチャリちゃん多いからね。肥満の方の介助は、これはこれで大きな問題なのでしょう。

可動式のリフトもこちらではよく見かけるツール。シルバーを基調とした道具然とした外観は、やはり好ましい。本校の生徒が旅行に行く時など、排泄用車イス、マットレス、可動式リフト等、信じられないくらいの大荷物になるのだが、そういうこともあってかバンが普及しているのかもしれない。

日常生活で使う補助用具は雑多な展示だ。固有の商品にフォーカスした展示はあまりなかったように思う。この背景はよく分からない。

ワーカー向けの腰を上げて座る椅子の展示も多い。長時間同じ姿勢で作業をすると腰に負担がかかるというのがその背景のようだが、そもそもこちらでは厳しい労働基準法を基に職場に対する作業療法士の指導が広く行き届いているという。ここは日本のワーカーにももっと気を使って欲しいところだ。

Sensorium Room向けの設備展示(出展メーカー)。真っ暗な空間の中に、音楽とスポット照明、そして様々な形のクッション、プラスチックのボールなどにより五感を刺激するというもの。情緒不安定な子供とコミュニケーションをとるための設備のようだが、欧州、特に英国ではかなり普及しているという。以前のエントリーでも紹介したが、ある自閉症の子はディスニーランドのエレクトリカルパレードを見ると落ち着くのだという。昼間は様々な視覚情報に溢れるが、夜であれば視覚情報は限定される。エレクトリカルパレードは、ひらめく光だけに集中できるのだそうだ。


キッチン、サニタリー関連はさほど大きなトレンドは見受けられなかった。昇降機能付きのキッチンカウンターに木を採用しインテリア性を高めたもの、トイレ周りの各種設備をモジュール化し設置の簡易化と操作性の向上を図ったもの、また以外とこれは使いやすいのではと思ったのが、便座に座りながら手洗ができる可動式の洗面器。車イスユーザーにとっては逐一移動しなくてもすむのではないか。一部、ウォシュレット(日本製ではない)を展示するメーカーが2社程見受けられた。ウォシュレットは今や日本の代表的製品(ただ欧米人からはちょっとした皮肉も感じるが)、ハイテク好きのこちらユーザーにも受けはいいと思うのだが。

コチラのメーカーが展示する各種拡声器(TV音、電話等々)は黒を基調とした実直なデザイン。こちらも福祉用具という引け目を感じない好ましいものだ。

自動車に関しては、車両横にリフトを取り付けたもの(後部エントリーに対し荷物を載せたままにできる)、車イスのまま運転席に移動できるものなど利便性を追求したもの。また車イス用リフトが搭載された電気自動車(市販品/8時間充電で100km走行/30万kr)、電動三輪車を搭載できるスペースを考慮したものなどがあった。日本の展示会に比べ、バンが圧倒的に多いのが特徴だろう。
さてデザイン面について述べると、本稿でも何度か触れたように、展示品の多くは極めて機能的(ブラック&シルバー、無機質なフォルム)な印象だ。一方、日本の多くの福祉用具は、白とパステルカラーによる配色と有機的な面構成を持ち”優しさ”を表現しようとするが、私にはなぜがこれが引け目を感じてならない(参照:スティグマデザイン)”できれば使いたくない道具”に成り下がってしまっている。そもそもこちらでは福祉用具ではなく、Assistive tool(補助用具)という呼称が使われているが、あくまで利用者主体のもとに道具の選択がされていることに起因しているのではないか。”自ら選ぶもの”になった時、福祉用具という特定のカテゴリーが意識されるものではなく、通常の道具としての佇まいが求められるように思う。
また、そもそも日本人からすれば”いつまでも健康で道具に頼らず”というのが、一般的な感覚ではないだろうか。一方こちらでは”楽なものは使う”という割り切った価値観のもと、抵抗無く様々な道具を使っているように思う。その結果、幅広い用途のAssistive tool(補助用具)が提供されているわけだが、これによる体を動かさない弊害もある。どちらがいいとは言えないが、使われてこその道具であるならば、こちらに見習うべきものは多いように思う。