2010年 05月 10日
Social Experiment 暮らし方の実験
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オーフス市から約15キロ程にあるAndelssamfundetというエコビレッジに訪問した。1992年に10人程度の住民から始まったそうだが、今では110軒程の家が建ち並び、200人が5つのグループに分かれて共同生活をしている。
案内してくれた日は土曜日の午後で、数人が共同施設(上写真)の建築作業中だった。完成まで12年程かかるとのことだが、リサイクル素材を使いながらゆっくりと進めている。ゴミだった貝殻を砕いて建築材料にしたり、極力廃材が出ないように逐一皆で検討しながらやっているという。途中で設計を変更することもあるそうで、子供がやっと通れるくらいの穴を見せながら「壁が出来てから、直接ダイニングルームに行ける通路が必要だと思ったのよ」と、まあなんか楽しそうだ。「ここの漆喰は、フランスから来た住民に教わったものなの」と住民同士で助け合えば愛着もひとしおだろう。因に土曜日はビレッジのために働く日なのだという(年間計15日)周囲にはユンボーに子供を乗っけて作業している様子もあった(子供が羨ましい)
自分たちのヒーティングシステムも持ち、近隣で伐採したウッドチップと太陽温熱器を組み合わせ自分たちが消費する95%以上の温熱エネルギー(温水、セントラルヒーティング)を賄っているという。またデンマークの国内企業と共同しStirling engineによる発電も試みている。住宅自体もPassive Houseという太陽光で暖められた空気を住宅内に循環させる仕組みを持たせ、光熱費の削減を図っている。また太陽電池パネルも活用している。
ここの住人のCO2排出量はデンマークの一般家庭の60%程度に抑えられているという(家庭での排出に加え、通勤、旅行など全ての生活行動も試算にいれている)住民同士で共有する車(2台)、ランドリーなども持ち、また鶏100羽、山羊10頭、牛15頭、コーンや野菜の畑も運営している。このビレッジの自治は定期的に開かれるミーティングの場で検討される。通常のオペレーションもあるが、どこに何を作って行くのかなどのビジョンもここで検討される。
案内してくれたアンに、ここに住み始めた理由を聞くと「従来の均一的な住み方ではなく、サスティナビリティに配慮した自分たち自身で考える暮らし方をしたかった。そしてここは、環境に配慮した生活、人生、そして社会の実験場(Sustainability, Life and Social Experiment)。日々いろいろ工夫してやっている」という。このSocial Experienceというキーワードはクリスチャニア(関連記事:共同生活)の住人からも聞いていた。クリスチャニアとの違いを聞くと「彼らはイリーガル(軍事施設を乗っ取る、ハッシュを吸う等)なことをしているけど、私たちはあくまで合法的にコムーネ(市に相当する)と折り合いながら運営している点が大きな違い」だという。
ここに併設されている幼稚園は、ビレッジの住民が自分たちの暮らし方のコンセプトを基にコムーネと数多くの対話を重ねながら計画を練ったそうだ。天井から採光を取り入れた大きな空間をもち、緑と一体になった運動場を持つ。「いいでしょ」と自慢げに紹介するアン。今後もマウンテンバイクのコースが欲しいなど夢は広がる一方のようだ。それにしても、このように地域住民が施設計画に積極的に関わり、自分たちの地域をデザインしていくというのは非常に創造的で、かつ住民の在り方として羨ましくさえ感じた。
さて、そもそも僕らが住む土地を選ぶ基準ってなんだろう。「手頃な価格のマンションがあったから・・」「交通が便利だから・・」「その街のイメージに惹かれて・・」などパッシブな理由が多いんじゃないだろうか。もしこれが仮に「環境負荷の少ない暮らし方をしたい」「多様な人間が集まる共同生活を作り上げたい」「自分たちで地域社会をデザインしたい」などアクティブな社会的な目的を持って選び、それを共有できる仲間が周りにいる土地であったならば、地域への参加と関心は非常に高いものになるだろう。「Social Experiment」というのは、こうした自発的な住民があってこそ成り立つ動機であり、そしてワクワクさせられる。
また今後は知的障害者のグループホームを建設するというが、彼らの暮らし方の中でどのように展開されるのが非常に楽しみだ。昨今、高齢者だけが住む住宅地は社会性が乏しく理想的でないとして、多くの福祉施設が複合化(幼稚園と併設など)を志向している。ただ福祉を基点に発想しているためか、コンセプトがチープなものになりがちだ。「誰でも利用できるレストランを併設する」「女性に来訪してもらうためネイルサロンを併設する」等々、そもそもどういう暮らし方を志向するのかという根っこがないから、継ぎ接ぎで、その施設の魅力に繋がらない。
福祉施設もその地域の一機能に過ぎない。であるならば、どういう暮らし方の地域なのかが先にあって、その次にダイバーシティを思考した方が、多くの人を惹きつけるものになるのではないか。多くの地方自治体が掲げる「人にやさしい街づくり」はアクセシビリティの向上には繋がっても、その地域に住む動機にはなっていないのではないか。
本校を例にとるならば、福祉を志向する学生もいるが、単にこの学校の雰囲気が気に入っているからなど福祉とは関係のない目的の学生も多い。そういう環境だからこそ、結果的に多種多様な人間が集まり、ダイバーシティになりうる。先に目的が必要なのだ。それが結果的に障がい者も楽しめる環境になる。
「Social Experiment」いいな実験って。なんかワクワクする。
by isoamu
| 2010-05-10 06:34
| デンマーク