2010年 05月 09日
福祉用具の定義
|
オーデンセにある補助器具センターを訪問。赤煉瓦とガラス素材を組み合わせたデンでは典型的なファサードのエントランス。それにしても、こちらのオフィス室内はどこも広くて心地いい。案内頂いたAnneはプライベートルームを持つが、そこには広いデスクとちょっとしたミーティングも出来るスペースを備えていた。デンマークでおそらく最も売れているだろうペンダントPH5が取り付けられたデーブル周りは、リビングルームとも見まごうばかりのとても落ち着いた空間。デスクは長時間の座位姿勢を避けるためスタンディングでも仕事が出来るよう高さが自由に変えられる。こちらでは労働基準局の規制によって、こうした労働環境が確保されているという。
デンマークで補助器具は原則無償で提供される。ただその上限は利用者の残存能力に応じて作業療法士が判断する。このセンターでは補助用具の試用、レンタル、支給等々の業務を行っている。上写真は自閉症などの子供がパソコンを楽しむためのマウス、キーボード、聴覚障がい者のためのコミュニケーションツール(キーインでテキスト表示と音声)など
車イスは子供用から大人用まで、且つ障害の状態に応じて様々なユーザーのニーズ対応できるよう豊富なバリエーションが置かれている。デン人の体格を想定してか幅広タイプもある。(Mさん、勝手に載せちゃった(^_^;)しかもそれを試乗できる簡易コース(実際の路面を想定し、様々な段差と舗装が再現されている)も用意されている。いずれも黒、シルバー一辺倒で素っ気ない処理だが、私には好ましく感じる(私見をコチラに展開しています)
食事、レクレーションなどにおける補助器具も豊富だ。トランプを固定する道具、タバコを安全に吸うための道具、詰め磨き、スプレーを拳銃のような操作で噴出できるものなど。もちろんこれらも無償提供の対象だ。
アウトドア用途の歩行器があるのには驚かされた。砂地でスタックしないよう、後輪は分厚く深い溝があり、前輪は二重で悪路での旋回性を確保しようとしている。日常生活には大きすぎるが、スポーティーな印象で好ましい。確かに、ノーマライゼーションは日常生活のみならずアウトドアアクティビティでも確保されるべきものだ。そしてこうしたスペシャルニーズに対応するものは、新たな用途を生み出す可能性をも感じる。日本の典型的高齢者デザイン(ベージュ色、キルティング生地)に対し、車イスと同様、黒とシルバーの素っ気ないデザインだが私には好ましく感じる(日本にも同様のデザインはあるが)お年寄りも若者から格好よく思われた方が嬉しくないかなー
作業用、ダイニング用の椅子もこれまた豊富。杖もしかり。
自閉症の子供などのために各種おもちゃも貸出している。対象としている地域人口にもよるのだが(確認は失念した)この在庫の多さには驚かされた。通常市販されているものも多いのだが、そもそも補助器具(福祉用具)に対する解釈が日本より広いのではないかと感じる。
料理、サニタリー内で使う補助器具、電動カート、自転車を体験できるスペース。サニタリーにおいては間仕切りの位置を変え、自宅と同等のトイレ空間を再現し、補助具の操作性を確認できるようになっている。自転車は、歩行補助自転車(スポーツ用含む)、三輪車(大人用)、並んで乗る二人乗り自転車、子供用タンデムシートがある自転車、車イスのまま同乗できる自転車等々、多くのバリエーションを体験できる。
ノーマライゼーションは移動、食事、排泄、入浴など基本的な日常生活のみならず、性生活においても問題意識は及んでいいはずだ。本センターにサンプルはなかったが、デンマークの補助器具研究センターのサイトにはバイブレーター、ダッチワイフ、ペニスポンプなどの性器具の登録がされていた。(因に財団法人テクノエイド協会の福祉用具情報システムに同種の掲載は無い)いずれも通常のセックスショップでも販売されている一般向けのものだが、以前は肢体麻痺を持っている方のためにコンドーム装着具などもあったと聞く。日本人の感覚だと隠したがるものだが、ここは人間の当たり前の行為としてサポートが必要だとする志向を持つ。
ただそもそもセックスに関してオープンマインドでもことも起因しているように感じる。例えば、女子学生は陰茎を模したケーキを作って、皆でかぶりつくなどのおふざけをする。仮装パーティーでは車イスユーザーの女性が陰茎の仮装をする。コペン駅の裏側(ホテル街)にはセックスショップが昼間から空いている。この間のイースターなどは他の店はほとんど閉まっているのに、セックスショップだけはガンガン空いているという始末だ。(関連エントリー:セックスショップ)
因に障がい者のセックスに関する問題は、知的障害にも及ぶ。知的障がいを持つ学生が女性のヘルパーを触ることもあるそうだ。また知的障がい者同士の恋愛もある(しかも彼らは全身麻痺もある)その際のアシスト方法については様々な調査、研究が行われ、そしてヘルパーを対象とした対処方法の資格認定制度も検討されているという。
さて様々なニーズに応えるべく様々な補助器具が用意されていたわけだが、およそ補助器具と思えないものも含まれたいた。しかし、私たち自身が従来の補助器具(福祉用具)に対する解釈を少し柔軟にしてもいいのかもしれない。誰でも日常生活をアシストしてくれるツールは必要だし実際に使っている。メガネなどはその典型だろう。という風に解釈してあげれば、こうした施設も障がい者だけでなく幅広いユーザーを利用者として取り込める。障がい者向けに考えられたものを、健常者が使うケースもでてくるだろう。結果として補助器具がノーマルなものになっていく、普及も促進される。そもそも補助器具に対する解釈自体もノーマライゼーションにしていく必要がある。
一方、基本的な日常生活のクオリティを挙げるよりむしろ、アウトドア、セックスも含め日常生活のアクティビティを大きく広げる補助器具に興味を惹かれた。ニッチニーズには思いもよらない価値を見出す可能性があるが、私自身は、こうした領域に関わっていきたい。
by isoamu
| 2010-05-09 07:21
| 福祉