2010年 03月 17日
外出自由な刑務所
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先日、刑務所を訪問したのだが「あれっ ここ刑務所?」と拍子抜けするほど、物々しさが全くないところだった(上写真)まず柵が無い、だからゲートも無い。所内の駐車場までなんらチェックを受けずに入所した。犯罪者が収監される部屋(下写真)はプライベートが確保され、テレビ、パソコンなど通常の生活が出来る設備も用意されている。部屋の大きさは6畳程度だっただろうか。因に今、私が住んでいる部屋よりも広いです(^_^; 所内には小さなスーパーもあって、自由に買い物が出来る。そして、事前に申請しておけば外出も可能だ。周辺を散策したり、休日は家族に会いに行くのだそうだ。
訪問時にはドラック密売で収監された犯罪者との会談を持つことができた。私たちがいる会議室にフラッと現れた彼は、手錠はしていないし警官の同伴もない。ボーダー?の服ではなく、私服を着ていた。とてもリラックスしていて「一体誰と話しているんだっけ?」と混乱するくらいカジュアルな雰囲気の会談だった。
ただ、こういう刑務所に入れるのは軽犯罪者のみで、殺人などの重刑な犯罪者は、常時施錠された部屋を持つ(一般的な?)刑務所に収監されるのだという。因にこの国には死刑がない。終身刑はあるようだが、第二次世界大戦後のデンマークの犯罪歴の中で子供を3人殺害した犯人が唯一なのだという。そして被害者及びその家族への賠償責任は国が負うのだのだそうだ。引率した担当教官は「人を憎んでも何も解決しないから」とサラリ。
人権に対する価値観が日本と大きく異なるのだろう。犯人に人権がないとはいわないが、多くの日本人の心情からすれば、被害者側に立ち、犯人は厳しい環境の中でしっかりと罪を償うべきだと考えるのが一般的だ。そもそもこれは刑務所ではなくリハビリセンターといったところだろう。この国は性善説の上で社会が成り立っているということか。電車に改札(車中での検札はある)がない国だからな。
ただ半分以上は犯罪を犯してまた戻って来てしまうという。快適な空間だから?というわけではなく、出所後、通常の仕事、友人関係に戻りにくいことが主たる原因のようだ。ただ犯罪率自体は上がることはなく、一定水準で安定推移しているという。因にこれは日本でも同じ状況下にある。特に高齢の犯罪者は、寒冷期の特にクリスマス、年末年始に、衣食住を得るため無銭飲食をして、また刑務所に戻って来てしまう。以前、軽犯罪の法廷に立ち会った時、検察、弁護士が再犯の可能性について執拗に容疑者に確認していたが、本人の意思だけではなかなか解決できない状況下で、その問いかけはひたすら虚しく感じた。
さて、このフリーな刑務所。私には、この国の手厚い福祉政策に重なってみえた。その残存能力であれば、おそらく自分で食事もできる(時間はかかるが)であろう障がい者も、ヘルパーによる食事介助を受けられる。うまく話せない障がい者には、その発言をサポートする通訳的なヘルパーが就く。贔屓めにみても日本と比べ大きく介助認定の寛大さを感じるこの国の福祉政策は、こうした個人を最大限尊重する価値観が背景にあってこそ形成されたものではないだろうか。この国のノーマライゼーションは伊達ではない。
by isoamu
| 2010-03-17 06:59
| デンマーク