2010年 05月 24日
ユーザーイノベーション
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本校では「Egmont Water Rehabilitation Centre」の建設を予定している(2012年竣工)。設計プランには海を眺める高台があるが、上写真は消防車を使って眺望のシミュレーションをしているところだ
温海水(リハビリ効果が高いとされる)を使い、車イスのまま入れるスロープを有したプール。自動で学生を追尾し安全を確保する監視機能。高台には車イスのまま登ることができる螺旋状のスロープも用意される。エグモントのサイトには「an innovative rehabilitation center」と説明されているが、確かに障害者と共に暮らす環境からのアイデアは他には類を見ないものになるだろう。しかし、日本も含め世界中どこもかしこもイノベーションという言葉をよく持ち出す。
「The program, which has a yearly budget of DKK 100 million (13.4 million euro or 20.9 million USD) and runs for four years, 2007-2010, is administered by Danish Enterprise and Construction Authority, which is part of the Danish Ministry for Economic and Business Affairs.」
出典元:Is Denmark a lead user of user driven innovation?
デンマークでは政府が主導してイノベーション促進に力を注いでいるという。”Surveys show that between 75% and 96% of development projects conducted in companies fail to achieve their targets(上記出典元)"というようにビジネスの不振を背景に、20億円/年、4年間でトータル80億円の投資を行う予定になっているが、実はこの投資の中にエレファントデザインとのコラボレーション(DANISH INNOVATION PLATFORM)が含まれている。
「ユーザー側からイノベーションを起こさせる取り組みとして、世界中から19の手法を選出し、4つに絞りこんで、12の企業と実験を行いました。その結果、オンラインコミュニティ(空想生活)を行いたい企業が現れたので、行うこととしました。 〜中略〜 最終的にオンラインコミュニティを利用した理由として・デンマークには参加型の手法を浸透させることができる背景が昔からある。・中小企業にはデザイナーがおらず、デザイナーが提案してくるデザインが本当に売れるものかわからない中で、このシステムであれば判断がつけやすい。・デンマーク人のほとんどはフェイスブックを活用している。オンラインを使用してデザインを評価する環境が整っている。ことがあげられます。」
出典元:Design Tools 第二フェーズ 第四回目
ハイ、確かに学生たちはFacebook活用しております。学校の掲示版としてもFacebookは活用されていますが、もちろんDanishです(T-T)
先日本校でスタートした「Den innovative bruger (デンマーク・ユーザー・イノベーション)」というプロジェクト(兼授業)も(おそらく)国の助成を受けているものだ。エグモントホイスコーレンは障害者というエキスパートユーザーが実際に生活をしている貴重な環境として、リサーチ対象に選ばれたものと思われる。授業の初回にはVIA university collegeのengineer(プロジェクトリーダー)によるオリエンテーションが行われた。そしてピックアップトラック、マウンテンバイク、ウィンドサーフィンなどがユーザーのアイデアから生まれた商品だとして、ユーザーイノベーションの典型事例として紹介された。
確かにそういう事例はあるだろうが、極めて稀なケースであることは否めない。ユーザーは商品に対する不満は感じるが、具体的な商品に落とし込むには相応のビジュアライズが必要となる。”ユーザーニーズを製品として具体化させるトランスレーター(デザイナー、エンジニア等々)が必要ではないか”とのコメントに対しては、納得感をもってくれた。
「(オンラインコミュニティによるユーザーイノベーションが)成立するにはいくつか条件があります。(1)投稿される「製品アイデア」が日用品、家電などに限定される。投稿される「製品アイデア」は実現可能なものでないと意味がない。複雑な要件が絡む最先端技術を用いた製品は、開発者との膨大な調整が必要。結果、技術制約が少ない日用品に限定される。(2)圧倒的な投稿数が必要 いくらクリエーターが投稿するとはいえ、あくまで個人レベル。全般的にクオリティは低い。よって圧倒的な投稿数を確保する必要がある。結果、クオリティが高いものも出てくる。あとは製品化前に公開すること自体がリスク。模倣されて販売される等々」
出展元:ユーザーイノベーション
「ネット上の仮想空間では課題の設定があいまいになりがちであり、ユーザーの能力も玉石混合であるため、コミュニティに課題解決を委ねることはできない。よってこのような商品企画は、ユーザーからの情報収集手段として使われることが現状である。」
出展元:コレボレーティブイノベーションのすすめ
「より商品化へ向けた例としては、P&G(プロクター・アンド・ギャンブル社)のConnect & Development戦略があげられる(R&DからC&D)。P&Gは課題解決の手段としてユーザーではなく、社外の研究者にビジネス・アイデアを広く集めるオープン施策をとっており、インターネットを通じたネットワークの利点をフルに活用している。」
出展元:同上
奇しくも、前述のVIA university collegeのエンジニアは、イノベーションの典型事例としてiPhoneを挙げた。ただAppleの秘密主義は有名で、彼らは周りの雑音に惑わされることなく自らのビジョンの実現のために力を尽くす。
「経営者は発明家ではなく、イノベーターである。その役割は、目指すべきビジョンやコンセプトを立案し、発明が起きる仕組みを組織にプロセスとして構築することにある。」
出典元:同上
「However, perhaps the most important thing that we keep hearing is how important it is to change the mindset of the organization. More CEOs and senior executives need to believe in the power of innovation to increase earnings, employee and customer satisfaction, and global competitiveness.」
出典元:Is Denmark a lead user of user driven innovation?
「本来イノベーションの源には、個人や集団の思い、ビジョンが存在している。志を持った人物の行為には、周囲を感動させる器量があった。究極において「共通善(public good)」に基づくもの。共通善が社会的な価値を見出し、新たな社会のためのイノベーションを生み出す卓越した行為に結びつくことだ」
出展元:イノベーションの源はビジョンから
結局はここに帰結する。
「製造業、デザイナー、ユーザーが参加できるビジネスモデルを構築し、それが機能することを証明したいです。特に、アパレルやファニチャー業界で展開していきたいと思っています。JOIN」が機能すれば、製造業側は作る前に売れるのか売れないのか明確にでき、ユーザーは不満などを企業に届ける機会を多く得ることができます。また、デザイナーは自分の力の説得力を増すという点で利点があります。このような参加者にとってメリットのあるプロジェクトを2010年までに開発し、2012年にはデンマーク国内で試運転を行います。2012年2月までには全世界で利用できるようにする予定です。」
Design Tools 第二フェーズ 第四回目
あまり方法論に依らないほうが。。。結局答えは自身の中にあるのだから。
by isoamu
| 2010-05-24 16:36
| デンマーク