2009年 10月 07日
福祉施設のあり方
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福祉施設は大きな実験の真っただ中だ。
先日訪れたブレーメン習志野(上写真)では「施設計画の市民参加」及び「多機能化」による新たな福祉施設を模索する。高齢者の課題は、周知の通りADL(Activities of Daily Life:日常生活動作)からQOL(Quality of Life:生活の質)の向上だが、その重要な要素として高齢者の社会性(地域との繋がり)があげられる。人間が社会的動物と言われる所以だが、それに対し高齢者だけの施設では叶いようもない。近年では施設内が完全バリアフリーになっていることにより、高齢者が閉じこもるという弊害もあるという。厚労省は、大規模施設による「高齢者の自立度低下」が顕著だとして、医療・介護費用の抑制も兼ねた「地域ケア」を志向する。
ブレーメン習志野では行政・市民・大学の3者が共同し”市民主導の施設づくり”を模索した。行政(千葉県)は土地の提供のみで、どう活用するかは市民に委ねた。「街づくりデザインゲーム」というブレスト、簡易模型を使って市民が計画を練った。その際のファシリテーションを日本大学の学生が担った。市民主導の計画案を基に民間から事業主を公募することで計画は進められた。
ヘルパーステーション、ショートステイセンター、デイサービスセンター、福祉用具レンタル販売など高齢者のための施設に加え、保育施設、フェイシャルエステサロン、レストラン、そして日本建築学会による住まいづくり相談室などの様々な機能を包含したものとなった。高齢者、障害者、子供も含めた横断的な福祉を模索したわけだ。
ブレーメン習志野は新たな箱を作ったが、古い民家を再生して福祉施設に転用した事例もあるという。こうした街の資産を巧く利用しながらの施策は、環境問題にも貢献しうる好例だ。
東京大学高齢社会総合研究機構の辻教授は、集合住宅の余剰空間を改修し、グループホーム、介護ステーションなど、高齢者が住んでいる住環境をそのまま多機能化することを模索する。住み慣れた場所で介護サービスが受けられるべきという「Aging in Place思想」をベースにした取り組みだ。住み慣れた住宅から離れて介護を受けるというのは、大きな精神的ストレスだが、それを軽減するというものだ。デンマークでは55歳から入居できるという高齢者住宅が供給され、数十年前から「Aging in Place」という思想が展開されている。(参照:イソムラ式 世代を超えた共存)
さて、ブレーメン習志野に話を戻す。様々な施設が統合されているが、利用者同士の交流にはまだまだ課題を残しているという。
例えば、茨城県水戸市の高齢者の通所介護施設「デイサービスセンターお多福」では、土曜や夏休みなどに小中学生がやって来るという。子供が介護施設を訪問しても見学や慰問にとどまる場合が多いが、ここでは独自の制度「キッズヘルパー」を設けている。認知症の高齢者の対話の相手を子供がするというのだ。
東京都江東区の「グランチャ東雲」(H23/4オープン予定)では認定こども園と高齢者福祉施設を合築する。7階建てで、幼稚園と保育園の機能を持つこども園が1、2階、高齢者施設は4、5階で、3階が高齢者と児童の交流フロア、6、7階は健康づくりフロア。交流フロアでの交流動機を誘発するコンテンツはこれからのように思うが、少なくともそれを前提とした施設設計がなされている。
高齢者、障害者、子供も含めた横断的な福祉のためには、箱を用意するだけでなく、そこで人々が集うコンテンツが必要だ。例えば、女性の就労支援のため保育機能として元気な高齢者と子供をミックスさせる、福祉施設と農業と組み合わせるのも世代を超えて関われるいいきっかけになるだろう。また農業はメンタルマネジメントの世界でも着目されているときく。高齢者のノウハウを次の世代に伝える学習する場として機能させるのもいい。共創共食を組み込んでおけば、地域に対する還元も兼ねられるように思う。
箱の用意に加え、それを活かしていくスキームと企画力が必要だ。
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by isoamu
| 2009-10-07 23:31
| 福祉