2009年 09月 13日
人体洗浄からの入浴へ
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浴室といえば、最も癒される生活空間だと思うが、高齢者施設の浴室はなにか物々しい雰囲気がある。入浴の介助は毎日行われるわけではない。2週間に1回程度、まとめて入浴するそうだが、泣き喚き嫌がる利用者が多いという。その様子から”人体洗浄”と揶揄するむきもある。
先日、訪問した施設では、特殊浴槽(上写真左)の替わりに、小さなヒバ製の浴槽(上写真右)を導入している。お話しを伺ったケアプロデュース青山幸広氏によれば、特殊浴槽の電動機能は過剰だという。適切な技術を学べば、簡易な構造の浴槽で、利用者の残存能力を引き出しかつ負荷のかからない介助方法で入浴させられるのだそうだ。お年寄りに関わらず誰でも機械式の浴槽でリラックスなど出来るはずもなかろう。ヒバ製の浴槽に入った利用者からは「あ~っ」と湯船につかったときの定番が漏れる。そして、風呂に入りながら、介護士との対話が自然に生まれるという。
青山幸広氏によれば、ここから介護士の意識も変化してくるという。介助に利用者を思う”心”が入ってくるというのだ。日々忙しく業務を遂行する介護士にとっては、利用者に感情移入する暇もない。入浴という癒された時間・空間の中で、自然に利用者と介護士の会話が生まれ、心を通わせる。そこからケア全体の質が向上してくるという。
作り手は、つい自身のフィールド(ハードウェア)で問題解決しようとする。しかし、このヒバ製の浴槽は、あるべきヒューマンウエアの視点から得られた必然のカタチ。結果として利用者、そして介助者に大きな価値をもたらしている。単体で全てを解決するのではなく、ハードウェアとヒューマンウェア、そしてそれらのインタラクションを鳥瞰的に捉えた先に、適切なハードウェアの姿はもたらされる。
by isoamu
| 2009-09-13 20:14
| 福祉