2009年 08月 07日
裁判員裁判でのプレゼン技法
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各新聞かなり詳細に法廷の様子を記述していますね。今月末に弁護士会でプレゼン講座を行うこともあり、各社の記事をプレゼン技法という観点でまとめてみようと思います。
■平易な表現
『難解な法律用語を避けようとしている』日経8/4
『「未必の故意」を「死んでしまうかもしれない」という趣旨の言葉におきかえる』日経8/4
『「防御創」を説明する際に「創」というのは傷のことです、という一言を添えていた』朝日8/4
『医学用語についても「大動脈」つまり「心臓から全身へ血液を送る重要な血管を傷つけました」などと分かりやすく言い換えて表現した』読売8/4
『かみくだいた表現で事件を語った』読売8/7
『検察官や弁護士はちんぷんかんぷんの「裁判語」を封印し、主張の売り込みに努めた』朝日8/7
『検察官が論告で「規範意識」を「つまり、してはいけないとされていることを守ろうという意識」と言い添えるなど、難しい専門用語を易しい言葉に変える場面も』朝日8/7
■柔らかな口調
『難解な法律・医学用語を羅列せず「です・ます」調で話す』毎日8/4
■ゆっくりした口調
『ゆっくり、分かりやすくしゃべっている感じがした』読売8/5
『これまでの法廷では検事の声が聞き取れない事もあった』読売8/5
『従来の裁判では法律用語の羅列と以上な早口でほとんどついて行けなかった』読売8/7
■内容の事前告知
聴衆の関心を引き、意識を集中させることができます。
『これからどのような事実を証明しようとしているかをお話しします』読売8/4
『言葉では少し難しいのでイラストで示します』読売8/4
『今回の結果を知るための重要な証拠。ぜひ見ていただきたいと述べた』読売8/4
『これから検察官の冒頭陳述、つまり証拠に基づいてどのような事実を証明しようとしているかをお話しします』毎日8/4
『次に、遺体の写真を映します。じかで見たくない方もいるでしょうが、非常に重要な証拠ですので、ぜひ見て頂きたいと思っています』毎日8/4
『検察官は(冒頭陳述の)読み上げを始める際に、これから話の概略を申し上げておきます』朝日8/4
■所要時間と情報量の事前告知
話がいつまで続くのかは聴衆の大きな関心事。特に視覚障がい者にとっては重要な情報
『時間は”約20分”を予定しています』毎日8/4、読売8/4
『”4枚”の写真を映します』毎日8/4
『枚数も”4枚と少ない”のでぜひ見て頂きたい』読売8/4
■関係者の言葉は要約せず口語調で伝える。
その現場がリアルに想起されるのだと思います。
『逃げる被害者を追いかけ「ぶっ殺す」などと言った』日経8/5
『検察官が被害者の母親の供述調書を朗読。「許されるなら、あの野郎の命を取って、私も死にたいです。死刑にしてほしい』毎日8/5
『検察側は被害者の人物像について「一生懸命働き教育してくれた」とする長男の調書を朗読するなど周囲からも慕われる母親を印象づけようとした。 〜中略〜 弁護側は長男の証人尋問の際、「近所の人としょっちゅうケンカして、相手の弱いところを突く」などと書かれている長男の調書を引用した』読売8/6
■ビジュアル表現
単に情報伝達を目的とした活用方法だけでなく、より心情に訴える手段としても実施されている。
『CGを使い被害者の致命傷の位置を説明』毎日8/4
『手元の様子をモニターに映し出す「書画カメラ」が証言台の上に置かれ 〜中略〜 窓の位置などに印をつけていき、その地図が法廷内のモニターに浮かび上がった』読売8/4
『現場の白地図に自宅の位置や言い争う声が聞こえた窓の位置を赤ペンで書き込むと、それがそのままモニターに映し出された』読売8/4
『CGを使用して遺体の傷口などを示した』日経8/5
『被害者のスナップ写真がディスプレイに映し出された。長男は「母のお気に入りの写真でした。すごい幸せそうな笑顔だと思います」』毎日8/5
『イラストも交えてよく理解できた』読売8/7
■時間軸を再現
『被告と被害者のやり取りを流れに沿って示し、殺害までの状況を再現した』日経8/4
『被害者のスクーターが被告宅の庭に侵入、猫よけのペットボトルを倒した流れを示し』朝日8/4
『映像では「引っ込みがつかない→刺すしかない」と、殺意が発生した流れが示された』毎日8/4
『弁護士も、チャート図を大型モニターに示し』読売8/4
■要約版の提供
これはケースバイケース。事前に配布すると大方説明を聞かず先読みされてしまいます。聴衆の視線は一定範囲に収める工夫が必要です。
『冒頭陳述の要旨をA31枚にまとめて説明した』朝日8/4
『冒頭陳述の内容を図解したA3判のメモを示し大型モニターには』読売8/4
『冒頭陳述の内容を1枚の紙にまとめたメモを提供したりした点は好評』読売8/7
■フキだしによる会話状況の表現
『法廷両脇の65インチの大型ディスプレイに言葉が表れる。「ナイフを見せる」「ひるまない」「ひっこみが付かない」』毎日8/4
『青と赤で被告と被害者をイラストで描き「最初はナイフで脅かそうと思っただけ」「やるならやってみろ」と、それぞれにフキだしをつけ』毎日8/4
■色による識別
以下の配色は色弱者には識別できないかもしれません。
『肋骨と背景を緑、血管を赤』毎日8/4
『肋骨は緑色に着色』日経8/4
■前置きにより集中させる
『遺体の写真はショックで、ご覧になりたくないかもしれませんが、事件の重要な証拠になると考えます』日経8/4
『「刑を決めるに当たって、考慮頂きたい事情です」〜中略〜 検察官はそう言って、検察側が重視する5点の情状のポイントを廷内の大型モニターで上映』日経8/4
『「最後に、刑を決めるに当たって考慮頂きたい情状についてです」映像には<犯行態様が執拗かつ残忍であること><被害者を死亡させており、重大な結果を生じさせたこと>との文字が浮かんだ』日経8/4
『「結果を知る上で重要です」と述べ、あえて4枚の遺体の写真を裁判員用のモニターに映し出した』朝日8/4
『ショックでご覧になりたくない方もいるかもしれませんが、事件の重要な証拠です』読売8/4
■聴衆に向かって話す
『冒頭陳述の文章を読み上げるのではなく、表示された画像を見ながら自分の言葉で話すように努力した』日経8/4
『ディスプレイと裁判員を交互に見ながら、ゆっくりと語る』毎日8/4
『弁護士は、出来上がった文章を読むのではなく、自分の言葉で話した』朝日8/4
『検察官や弁護士は、裁判員の方を向いて口頭で訴えた』朝日8/4
『(弁護士は)書面を一切見ず、裁判員に語りかけるように事件の経緯を説明した』読売8/4
『裁判員の目を見ながら語りかける』読売8/4
『弁護人もほとんど書面を見ないで、裁判員たちに直接語りかけるように意見をのべる』読売8/7
『裁判員と目線を合わせ、はっきりとして口調で話す』朝日8/7
■ボディランゲージ
メラビアンの法則といって話のインパクト(影響度)はボディランゲージが55%を占めるといいます。ただ内容の理解と連動するものではありませんので、誤解のないように。
『弁護士も手ぶりを交え、ゆっくりと冒頭陳述を展開』朝日8/4
■強調部分は抑揚を変える
『「被告はぶっ殺すとは言っていません」「刺した後、決して被害者を追いかけてはいません」争点になった部分はさらにゆっくりと説明した』毎日8/4
■論点を明確に
『検察側の主張のうち、弁護人が認めている点と、争っている点をきちんと書き分けているのが評価できる』日経8/4
■聴衆の嫌悪感に対する配慮
『裁判員の精神的負担を避けるため、傷口の状況などはコンピューターグラフィックスを用いた』朝日8/4
『裁判員の負担も考慮して遺体写真などの生々しい証拠は最小限にとどめた』朝日8/4
『CGを使い、生々しさはかなりなくなった』朝日8/7
■演出(?)
『証人が泣き出す場面があったが、検察側がさっとハンカチかティッシュを差し出していた。やはり裁判員を味方につけようとしているのか』読売8/5
全体にプレゼンの評価は高いようですね。検察側は2年間の準備期間、そして模擬裁判も全国で600回以上行われたといいます。一方で、組織を挙げて取り組んだ検察側に対し、個人で対応している弁護士とのプレゼン技術の差が露呈したとの声も。今後、全国で年間2千件の裁判員裁判が行われ、1万6千人以上の市民が審理にかかわる見通しだといいます。今回の裁判は争点も明確で比較的理解しやすい事例だったとのこと、それを差し引いて考えるとプレゼンにはまだまだ課題があるのかもしれません。
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・裁判員制度とプレゼンテーション
・新潟県弁護士会(H21.8.28)関連資料
・新潟県弁護士会プレゼン講習 日経(8/29)掲載
by isoamu
| 2009-08-07 00:04
| プレゼンテーション