使う人が主役 〜井上眼科クリニック〜
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クリニックの入り口付近には「患者さま第一主義」という基本理念が掲げられている(上写真) おそらく多くの患者さんは、診療に受け身で医師との関係において弱者になりがちではないだろうか。考えてみれば「患者さま第一主義」というのは至極当たり前のことではあるが、改めてこう掲示する事に、本クリニックの真摯な姿勢がうかがえる。


メインの通路には、通路に沿って「ライン状の照明」と「菱形のタイル」を設置し、通路であることの識別させている。通常の点字ブロックでは、つまずく患者さんもいるだろう事から、タイルとカーペットの素材の違いによって識別させる方法をとったそうだ。ちなみに現在の黄色い点字ブロックには様々な意見がある。そもそもバリアフリー新法での法令化を背景に、統一された形状が敷設されることで使用に足りうるとする意見から、点字ブロックの利用者であっても、最低限危険な箇所にだけ敷設されていれば十分であとは景観に対する配慮などを優先してもいいという意見もある。個人的には、まだまだあるべき姿を継続して議論していくべきだと思っているが、このクリニックの取り組みが良好な効果をあげることを期待したい。

トイレのピクトグラムに対する取り組みもなかなかのものである。本クリニックには当然、視力の弱い方が来院するが、男女間違えてトイレに入ってしまうことがあるそうだ。そこで改めて通常使われている男女のピクトグラムを見直した。多くの被験者評価をへて、女性のピクトグラムの”スカートの幅を広く”するデザイン(上写真)にたどりついたという。細かな配慮であるが、だからこそ本クリニックの真摯な取り組みが感じられる。しかも被験者評価は本クリニックのスタッフが中心となって実施した行ったという。


まだまだ取り組みは多岐にわたるが、この活動をクリニック内にパネル掲示(上写真)しているのも非常に印象的だった。更には活動を紹介するパンフレット(上写真)も用意されている。こうして自らユニバーサルデザインを標榜することは、患者に対するクリニックのCS(顧客満足度)向上のみならず、そこで働くスタッフの責任感も醸成することにも繋がるのではないだろうか。ほとほと感心しきりである。
そもそもこうした説明を、スタッフの方が誇らしげにされているのも印象的だった。通常の病院であれば、至る所に貼紙がされて施設内景観を煩雑なものにしてしまうのだが「せっかくさまざまな配慮をしたサイン計画を台無しにしたくない。決められた場所以外は何も掲示はしないようにしている」そして「サイン計画自体も日々改善を図っている」更には「患者さんにお渡しするパンフのユニバーサルデザイン化をしたい。そしてその成果を学会に発表したい」など、施工後もユニバーサルデザインに強い関心を持ち、常に環境を改善しようとする意欲を持続させている。
施設というのは、建築家、インテリアコーディネーターがいくら使い方を想定しても、思わぬ使われ方をされてしまう場合もあるだろう。ある建築家は「設計は使う人と一緒に考えないとダメ」だという。例えば、原寸のモックを庭に作り、技師、看護婦と一緒になって間取り、設備のレイアウトを考える。そして、技師、看護婦自身が自分の研究成果だとして学会発表するくらいまで思い入れられるようになるのが理想的だと、そうしてようやく施設という箱は生きてくるのだという。そして建築家は、ただそれをサポートするだけで、あくまで主役は使う人であるべきだと。
ここでは、使う人が主役となった改良が続けられ、そして自らの環境を誇りに感じているように思う。設計者と使う人との理想的な関係が構築されたのだろう。そして、本クリニックのユニバーサルデザインの対象は「クリニック内」に留まらず、「駅からクリニックまでの移動空間」へと広がっているという。井上眼科クリニックの理念「患者さん第一主義」は1施設の枠を超え、まさしく患者中心に、事業体を超えて広がっている。
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