デザイン思考のマネジメント
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「デザイン思考のプロセスは、一連の体系的なステップの連続であるというよりも、複数の「スペース」で構成されるシステムに例えるのがいちばんうまく説明できる。ここではスペースという言葉を、「イノベーションの連続体を形成する複数の関連活動を類型化するもの」という意味で用いる。デザイン思考の初心者には、このプロセスが支離滅裂に思えるかもしれない。というのも、その構造が他の事業活動に典型的に見られるような、次の行程を間違いなく予見できる線形のプロセスとは異なるからだ」
出典元:December 2008 Diamond Harvard Business Review "IDEO Design Thinking"
今はデザインマネジメントの立場で、まさしく事業活動とデザインの現場とのギャップを埋めるのに日々頭を悩ましているが、これほどその葛藤を端的に表しているものはない。IDEOはデザイン機能もさることながら、こうした表現ができるからこそ経営コンサルなど従来のデザイン事務所にはない新たな領域の顧客を獲得できるのだろう。ただ、実のところこうした問題意識は様々な場面で語られている。
「デザイナーは全く何もない砂漠に突然棒を立て、そのテッペン(目標)に向かって突き進んでいく」のに対してエンジニアは「ピラミッドを積み上げるようにさまざまな条件を集め、最も高くなるピラミッドを探す。〜中略〜 直感的に問題を感じ取ることができるエンジニアや論理的に積み上げることができるデザイナーというような融合(Fusion)脳を持った人材が必要になってきている」
出典元:日経デザイン 2009年1月号 P85
融合されるのが理想ではあるが、果たして現実的なのかどうか。これも随分前の記事だが、黒須先生が以下のように語っている。
「デザイナの思考パターンが世間でいうところの論理的思考パターンからは外れていることが多いという点だ。拡散的で柔軟で創造的な発想をする能力と、理詰めにきっちりとものごとを考えていこうとする思考能力とは、経験的にみるとなかなか両立させることが難しい。〜中略〜 敢えて言うなら、そうした形でのアピアランスデザインとユーザビリティデザインの個人内統合は誰にでもできることではない、ということだと思う。ダビンチを引き合いに出すほどのことではないと思うのだが、比喩的にはそれくらいの能力のある人間でなければ個人内統合は困難だと思われる。〜中略〜 もうひとつ、敢えて言うならば、人間工学や認知工学をやってきた専門家にアピアランス的に優れたセンスや創造力をもった人がいる確率も極めて低いと思う。〜中略〜 となると、提案することができるのは次のようなやり方だ。デザイン部署にいるチーフデザイナはアピアランスデザインとユーザビリティデザインの両方を兼ね備えることのできる人。かつデザインマネージメントの能力も備えた人。その他のデザイナはアピアランスを中心にして仕事をしていけばいい。
ただし、同じ部署の中にいるユーザビリティの専門家たちと協調的な仕事をすることで、お互いに相補いあい、反復的デザイン、いや同時的デザインを推進していくのだ。所属メンバーの個人的能力の不足をメンバーの組み合わせによって補わせるのがマネージメントの要諦の一つ。ただし、それだけではなく、数人から十人に一人くらいはいると思われる二股人間を発掘し、彼らを適切に指導・育成していくこと、ここがポイントだと思っている。」
出典元:アピアランスデザインとユーザビリティデザイン
現実を直視し、適材適所という当たり前のマネジメントを実直に展開していくことが必要。ただ私的には、上記にある二股人間でありたいと思う。